劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座(あかざ)再来の主題歌「太陽が昇らない世界」を担当するAimerさん。映画を彩る、力強い歌声の裏側に迫ります。


Aimer「映像を見ながらのレコーディングで、感情がより昂った」

無限城(むげんじょう)――その底なし沼のような恐ろしい空間を、鬼殺隊(きさつたい)たちが文字通り落下する。これからどんな戦いが待っているのか不安と興奮を掻き立てられる。そんな思いを感じさせる本作の主題歌が、Aimerさんが歌う「太陽が昇らない世界」。暗く重く、そして突き抜けるような疾走感が印象的だ。

「今回主題歌のお話をいただいて、最初はただただびっくり、驚きしかありませんでした。でも、LiSAさんと一緒に担当できることがとても嬉しかったですし、そしてなにより『遊郭編(ゆうかくへん)』を経て再び任せていただけるということが本当に光栄で」

4年ぶりに鬼滅の世界に舞い戻ってきた、Aimerさん。今作は、アニメ『鬼滅の刃』の総監督である近藤光さんが歌詞を、劇中音楽を手掛ける椎名豪さんが作曲・編曲を手掛けたという、世界観を凝縮(ぎょうしゅく)した一曲。

「レコーディングの前にお二人と打ち合わせをさせていただきました。あえてW主題歌であることの意味をお伺いし、映像的なところはもう完成に近づいているなか、主題歌が最後のピースだから、世界観にしっかり浸透させる曲に仕上げたい、といったご希望を伺い、改めて、私も頑張らねばと思ったのを覚えています」

最初に楽曲を聴いたときは、あまりの力強さに驚いた、とも。

「完成前のものだったので、いま劇場で流れている楽曲とは歌詞や長さは少し違ったのですが、いろんなものが詰め込まれている、攻めた曲だな、と思ったのが第一印象です。同時に、果たして自分がこれを歌いこなせるのだろうか…とも思いました。実際歌ってみると、例えばサビの終わりからいきなり高音に上がったり、それでいてAメロはいきなり低いキーまで落ちたり…と、とにかく高低差が激しくて。レコーディングの際に椎名さんに聞いたのですが、私の音域、上限と下限までしっかり使って作られたということで、なるほど、それは難しいはずだ、と。でもだからこそとても手応えのある曲で、挑戦しがいがありました」

これまでも多数アニメの主題歌を担当してきたが、どちらかというとバラードで、エンディングを担当することが多かったという。

「そういった曲を歌うときは、作品を鑑賞したときの余韻を引っ張るというか、より深めるような寄り添い方を意識して歌っていました。でも今回は『無限城編』のインパクトをわかりやすく訴える、その役割を担っていると思っています。それに加え、本編のドラマを伴って展開していく曲でもある。いろんな意味で、私自身も今までとはちょっと意識が違ったような気がします」

レコーディングは基本的には「自由に歌ってください」ということで、特に指示はなかったそう。

「何回か歌った後に、近藤さんと椎名さんたちから、“画があったほうが、より感情が込められるのでは?”と提案があり、急遽スタジオにモニターが運び込まれまして、そこで映像を流し、それを見ながらレコーディングをする、という方法をとったんです。確かにそのやり方があったからこそ私も気持ちを作れたような気がします。実際、映像を見る前と、見た後では、結構歌が変わっていて。本編の熱量に負けないように気持ちを込めることができたかな、と思います」

タイトルでもある“太陽が昇らない世界”というフレーズ。曲の後半では歌詞としても歌われる。

「全体的には、鬼殺隊のみんなの心情にすごく寄り添っている歌詞だな、と思っています。最終的に渡された曲にこのフレーズが追加されていて、私としても、リアルに“最後のピースがハマった”という実感がありました」

レコーディングの際、映像を見ていたとはいえ、完成形を観たときには、かなり感慨深かった、とAimerさん。

「この歌詞が本編とガチャッと噛み合っていくんだ、全体の中でこの曲にはこんな役割があったんだ…と、観ながら答え合わせができる感じがして、とても嬉しかったです。でもやっぱり自分の曲が流れるところは、ドキドキしてしまうんですが(笑)。鬼殺隊のみんなが鬼舞辻無惨(きぶつじ・むざん)に導かれるように無限城に落ちていく、その緊張感や、臨場感を掻き立てるような曲になっているので、ぜひ本編と一緒に楽しんでほしいと思います。個人的には、一番最初の“元凶”の歌い方にインパクトを持たせるところを頑張ったので、そこも聴いてほしいです」

『遊郭編』で主題歌を担当して以来、ライブで客席に親子連れを見ることが増えたことや、ファンからのメッセージなどを通じて、『鬼滅の刃』という作品の反響の大きさを実感したそう。改めてこの作品の魅力を聞いてみると、

「主人公の炭治郎くん(竈門炭治郎/かまど・たんじろう)が戦いの中で成長していくのを、ハラハラしながら見守っている感じが、私はとても好きです。また『無限城編』に関しては、戦う理由がどんどん個人的になるわけですが、個人的になればなるほど、逆に普遍的ななにかがそこに見えてくる気がするんです。鬼殺隊にも、鬼にも、“この気持ち、わかる”という部分が絶対にある。そこに、私たちの心を揺さぶるなにかがあるのかもしれないです」

アーティストとして活動を始めて、15年。気がつくと周囲の環境の変化を感じるとき、自分の“素(す)”をよりブラッシュアップするために、Aimerさんは哲学書を読む。

「信念や価値観をより自分に合うものにチューニングすることは、すごく大事だと思うのですが、そういうとき、哲学がとても助けになります。おすすめは、主要哲学者の言葉がたくさん書かれている哲学用語辞典。あと、教科書を出している山川出版社が、大人向けに出している倫理の教科書なんかも、結構いいですよ」

Profile

Aimer

エメ ミュージシャン。2021年に『残響散歌/朝が来る』で、テレビアニメ『鬼滅の刃 遊郭編』のオープニングおよびエンディング曲を共に担当。

Information

「太陽が昇らない世界」

Blu-rayとセットになった期間生産限定盤¥1,760 ほかにも通常盤CD¥1,430(ソニーミュージック)

劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来

日本で公開された映画史上最速で100億円を突破。原作/吾峠呼世晴(集英社ジャンプコミックス刊) 監督/外崎春雄 キャラクターデザイン・総作画監督/松島 晃 脚本制作/ufotable サブキャラクターデザイン/佐藤美幸・梶山庸子・菊池美花 プロップデザイン/小山将治 美術監督/衛藤功二 撮影監督・フィニッシング演出監督/寺尾優一 3D監督/西脇一樹 色彩設計/大前祐子 編集/神野 学 総監督/近藤 光 アニメーション制作/ufotable 配給/東宝・アニプレックス

取材、文・河野友紀 Ⓒ吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

anan 2462号(2025年9月10日発売)より
Check!

No.2462掲載

素を磨く 2025

2025年09月10日発売

SNSでの映えや盛りの応酬に疲れ、等身大の自分に回帰しつつある今、表面や小手先ではなく、基本と本質に立ち返る「素を磨く 2025」特集。AIに負けないこれからのスキルや、爪や歯といった先端を整えるパーツケア、QuizKnockと学ぶ数学的思考、達人に聞く最新の語学マスターメソッドなど、各種の素を磨くメソッド=素活をご紹介。

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「七転び八起き」とでもいうのか、運勢のアップダウンの激しさと、それに付随する感情の変転が見て取れる暦の日です。多動的にいろいろなことに手を出し、うまくいくことがあってもそれで傲慢になったり飽きたりしてしまい、また次に目を向けるという状況。ここは気を落ち着けて、一意専心することが本当の成功の鍵です。

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