開催中の「2025年大阪・関西万博」会場の中心にあり、現代の清水寺と称される大型木造建築「大屋根リング」。設計者の藤本壮介さんはいま最も注目される建築家の一人だ。自身の建築を「未来の森」と喩え、その「森」が世界各地に広がりつつあるという。その思想と作品を知りたい人はこちらの展覧会へ。
人と人、人と自然が溶け合う、未来の森を目指す建築家の夢。
「森」は建築物とどう結びつくのか。森美術館・キュレーターの椿玲子さんはこう解説する。
「藤本さんの建築には、本来なら囲われている場所が外部に開かれている『ひらかれ かこわれ』、空間の用途や性質が曖昧で多義的な『未分化』、多数の部分が一つの建築を構成する『たくさんのたくさん』という3つの要素があります。これらが森のように複雑で有機的な建築を生み出しています」
例えば《ハンガリー音楽の家》は天井に開いた穴から木漏れ日のように日差しが入り、建物の幹となる部分は94枚のガラスパネルから成るガラスカーテンとなっている。
「来館者は公園からの続きのように建物に入ってくる。建築と周囲の森が一体化し、有機的で包み込まれるような空間です」
“樹木”をテーマにした集合住宅《ラルブル・ブラン(白い樹)》もユニークかつ美しく、圧巻だ。
「地上17階建ての建物で夕日に輝く姿は印象的。幹から枝分かれするようにバルコニーが張り出し、住人は南仏の温暖な気候や眺望を楽しめます。一般利用できるフロアもあり、街に開かれた雰囲気もすばらしい」
これらの建築は多様な価値観が尊重されつつ、個々人が“バラバラ”でもある現代に、豊かなつながりを生み出そうとする試みでもある。会場では建築模型やオブジェを年代順に配置し、「森」として表現する大型インスタレーションなど、藤本建築のエッセンスを体感できる展示が随所に。こんな建物や街で暮らしたら、と想像すると未来を少しだけポジティブに思えてくるかもしれない。

《ハンガリー音楽の家》(外観) 2021年 ブダペスト 撮影:イワン・バーン
ブダペスト市民公園の森に建つ。空から見ると穴の開いた巨大なきのこのよう。幹の部分は94枚のガラスカーテンとなっている。

《ラルブル・ブラン(白い樹)》 2019年 フランス、モンペリエ 撮影:イワン・バーン
木の幹から枝分かれするように張り出すバルコニーは「片持ち梁」という工法を用いる。都市と自然を結びつけるランドマークだ。

《武蔵野美術大学美術館・図書館》 2010年 東京 撮影:阿野太一
1枚の本棚が渦巻きを形作りながら広がる「書物の森」。森を散策する中で本と出合い、発想の広がりを促すのがねらい。
藤本壮介の建築:原初・未来・森
Information
森美術館 東京都港区六本木6‐10‐1 六本木ヒルズ森タワー53F 開催中~11月9日(日)10時~22時(火曜と8/27は17時まで、9/23は22時まで。入館は閉館の30分前まで) 会期中無休 一般2300円(平日)ほか TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)
anan2455号(2025年7月16日発売)より