
初ソロアルバム『アメノヒ』をリリースする麒麟の川島明さん。朝の帯番組を続けながら新しいことにチャレンジする、その想いやアルバム制作裏話をじっくりと伺いました。
情報番組『ラヴィット!』(TBS系)でMCを務め、朝の顔としてすっかりお馴染みの麒麟の川島明さんが、初のオリジナルソロアルバム『アメノヒ』をリリースする。バラエティ番組で場を和ます渋い低音ボイスとはまた表情の異なるメロウな歌声に驚かされる、シティ感のある上質な一枚だ。

――とても素敵なアルバムでした。そもそも川島さんは歌うことはお好きだったんですか?
音楽は子どもの頃から好きでしたね。両親が音楽好きで父はビートルズやカーペンターズのレコードを集めていて自分にとってもそれが身近な存在でした。意識して音楽を聴き始めたのは中学生の頃。当時、渋谷系がブームで。とはいってもクラスの明るいタイプの子たちは小室サウンドとかそっち系ばかり。おとなしい性格の僕は音楽好きの友達にフリッパーズ・ギターやスチャダラパーを教えてもらって、「自分はこういう通っぽい、かっこいいものを知っているんだぞ」と、クラスの片隅で悦に入っているような感じでした。
――学生時代にバンドを組んだりとかは?
そういう目立つことはしなかったですね。カラオケでさえ20歳を越えてから初めて行ったくらいですから。だから、そんな僕がソロでオリジナルアルバムを出すとは、世の中、自分では思いもしないことが起きるものです。
――2020年に藤井隆さんが主宰する音楽レーベル、SLENDERIE RECORDのオムニバスアルバムにシンガーとして参加。そこで歌声を初披露された。
そうです。最初はSLENDERIE RECORDのライブがあるから歌いに来ないか? と誘われたのがきっかけですね。
――藤井さんは、川島さんは歌えるぞ、と思っていたんですかね?
藤井さんには若手の頃からずっと目をかけていただいてたんです。レギュラー番組が一緒の時期もあり、飲みに行くこともよくありました。その時に、「カラオケ行こう」となることもしばしばで。それまで芸人とカラオケに行っても歌わないことがほとんどだったんです。みんな話をしたいし、ふざけたいから、そっちに夢中になって歌うことなんてそっちのけで。でも藤井さんたちのカラオケはまったく違った。4時間フル歌唱で、おしゃべりナシの全員オールスタンディング。終わる頃には汗びっしょりになってるんです。こんなむちゃくちゃ明るくて楽しいカラオケもあるんやなと、正直驚きました。そういう場なので僕も精一杯歌わせていただいて。その時に藤井さんに「川島くんはしゃべる声と歌う声が全然違うね」と言われたんです。それからしばらくしてまたカラオケに誘われて。なんでやろうと思いながらついていったらなぜか堂島(孝平)さんもおって。「これ歌って」とASKAさんの「はじまりはいつも雨」を入れられたんです。歌いやすいキーに下げようとしたら、「あ、原曲キーで歌ってください」と急に藤井さんがプロデューサー顔になられて。あ、これ、オーディションか、と思いました(笑)。藤井さんと堂島さんでこそこそと「F♯いけるね」とか言いあっていて、どうやら僕の音域を測りたかったみたいで。それからしばらくしたら、フジファブリックさんの「若者のすべて」のカバーとオリジナル曲の「where are you」が出来上がり、気づいたらステージに立って歌っていました。
僕の歌で泣いてくれる、それが驚きでした。
――実際に歌でステージに立たれた感想はいかがでしたか?
照れくささはもちろんありましたし、芸人が笑いナシで歌をやるのってどうなんやろうとも思いました。でも藤井さんをはじめ作詞、作曲、アレンジとたくさんの方が関わってくださっている。それを自分が台無しにするのだけはあかんやろと。これはちゃんとやろうと思いましたね。一生懸命歌って、サックスにも挑戦した。そうしたらお客さんにも響いて、泣いてくれたり、感動したと感想もいただいたりして。あ、歌うってこういうことなんだなと実感できた。でもまあ、その2曲で終わりかなと思っていたんです。でも、昨年のレーベル10周年のライブに参加させていただいて、久しぶりにリハで歌っていたところ、パッと振り返ったら藤井さんが、ずぶ濡れかってくらい号泣されてたんです。どうしたんですか!? と聞いたら「川島くんの歌が良すぎる。アルバムを作りたい!」と言われて。こうなった藤井さんのことは誰も止められないですから。僕からしてもアルバムを作っていただく機会なんて二度とないことかもしれない。これは全力で乗っからせていただこうと思いました。
――アルバムの制作陣は藤井さんセレクトらしい、通好みの贅沢な顔ぶれです。大江千里さん、堂島孝平さんといった名シンガーソングライターやJ‐POPの名曲を数多く手がけた作曲家の中崎英也さんなどベテラン勢がいる一方で、She Her Her HersやLe Makeupなど若手注目株のバンドやトラックメーカーも参加しています。
デモ音源が続々と藤井さんから送られてくるのですが、どれも良くて驚きました。しかもポップなものから落ち着いたバラードまで、バラエティ豊か。これ、一枚のアルバムに全部入るの? と思うほどで。でも、通して聴くと意外とすべて調和がとれていてしっくり合う。「明太子とチーズと紫蘇って全部ジャンル違うけど合うんやな」みたいな意外性のある組み合わせの妙があって、面白いアルバムになったかなと思っています。
――レコーディングはいかがでしたか? 高音を切なく歌い上げる感じがとても印象的でした。
それは藤井さんも狙っていたようです。大江千里さんの「夜明けの歌」なんか高くて、高くて。藤井さんがニュアンスを伝えたいからと、わざわざ藤井さんバージョンの仮歌を歌ってくれているんですが、僕はその藤井さんのキーも出ない。キーを下げてほしいとお願いしたけれど「下げすぎはダメ」と厳しく言われました。僕が精一杯で歌っている感じを大事にしたかったそうです。ライブで、普段出ない高い音を頑張って出そうと必死に歌う姿を見せたい、と言われて。川島のその姿をみんなが応援したくなる。そこが大事なんだ、と。仕方ないのでこっちは、主食マヌカハニーか! ってくらいハチミツを摂って喉をいたわりながら歌い切りました。
――その成果はめちゃくちゃ出ていると思います! リリースしてすぐレーベルのファミリーコンサートも始まります。こちらは川島さんの『アメノヒ』リリースツアーも兼ねている仕様です。
そうですね。僕が出演する公演は「~川島明『アメノヒ』ツアー~」であり、ファミリーコンサートでもあります。一体、どんなステージになるのか、今から僕も楽しみです。漫才では47都道府県を回りましたが、歌で地方におじゃまするのは初めてのこと。子どもたちがどんな顔で僕の歌を聴いてくれるのか。ファミリーコンサートですから、泣いたり騒いでいただいても全然大丈夫ですので。
――朝の帯で『ラヴィット!』があり、さらにそのほかにラジオやテレビのレギュラー番組を抱える中、アルバム発売やツアーも回る。精力的に活動するパワーの源は何なのでしょうか?
基本的に僕は求められることに応えているだけなんです。主体性を持ってやっているというより、帯の番組にしろ、アルバムにしろ、「やってみない?」と声をかけてもらい、人に誘導していただくままに流れでやっているだけなので、自分からパワーを出すという感覚とはちょっと違うかもしれないです。『ラヴィット!』ももう5年目。最初の頃はたしかに肩に力が入っていたし、毎回完璧に前もってネタをきっちり100なら100点分仕込まないといけないと思っていました。でも今は、前日に60点くらいに仕上がっていればいいかな、と思うようになりました。60を本番で100までいくように演者一同で頑張る。それくらい遊びや隙間があったほうがうまくハマると気づいたんです。僕にとって『ラヴィット!』はテレビと劇場の間くらいの感覚で、生の面白さにはある種のゆるさも必要。それで、結果120点出る時もあれば、うまくいかなくて30点の時もある。でも、30点なら30点で「先週、ウケなかったな」とネタにもできるし、それのリベンジで別企画につながることもある。『ラヴィット!』はスタッフのみなさんの熱意がすごいですから。僕はそこに乗せていただき、やらせていただいている感覚です。
――藤井さんのオーダーに柔軟に応えたり、生番組のゆるさを受け止めたり。川島さんの持つ懐の深さがキモなのかもしれませんね。その余裕はどのように培われているのでしょう。自分のための時間はどう過ごされていますか?
朝の番組があるので規則正しい毎日を過ごしていますが、ほうっておくと4~5日くらいは寝室から出ずに布団の中で微動だにしない深海魚みたいに過ごせる人間なんで……。だから心の余裕は、今は眠る前の2~3時間でチャージするようにしています。好きな漫画を読んだり、映画を観たり、この時間は自分のためだけに使おうと。なにか勉強しよう、とかもナシ。そのインプットが必須なのかもしれないです。どんなに夜遅く帰宅しても、何度も読んだ『こち亀』を一回読んでから寝ようとか、何度も聴いたサンドウィッチマンさんの漫才を1本観て寝ようとか、ちょっとなにか自分の心がほっとするものを摂取して、寝る。
――心の安定のために漫才を観られるんですね(笑)。
サンドさんはボケとツッコミのテンポが完璧。リズムが心地よすぎて必ず寝落ちできる。これ、誰も毎回オチまで辿りつけてないんじゃないか、とさえ思います。眠れない夜はぜひサンドさんの漫才を。心安らかに笑顔で眠れますよ。
Profile

川島 明さん
かわしま・あきら 1979年2月3日生まれ、京都府出身。’97年、NSC大阪校に20期生として入学、’99年に同期の田村裕とお笑いコンビ「麒麟」を結成する。現在、朝の帯番組『ラヴィット!』(TBS系)でMCを務めるほかテレビ・ラジオのレギュラー番組を多数持つ。競馬、ゲーム、漫画など多趣味芸人としても知られる。
藤井隆プロデュース、オリジナルソロアルバム『アメノヒ』が5/28 発売に。先行配信された横田真悠とのダブルヴォーカル曲「Time Line」、カバー曲「若者のすべて」など全8曲収録。¥3,300(SLENDERIE RECORD/よしもとミュージック)。5/31の長野・須坂市文化会館メセナホールを皮切りに全国8か所を巡る「SLENDERIE RECORDファミリーコンサート2025」では4公演に出演する。
anan2447号(2025年5月21日発売)より