知性か道具か。21世紀の“マシン”の行方。
「『知性』でしょう。人間と協働するコラボレーターとして見ている」
と森美術館アソシエイト・キュレーターの矢作学さん。例えば出展者の一人、アニカ・イはこれまで収集してきた画像や自身の作品の画像をAIに学ばせて作品を制作する。
「彼女もそうですが、人工知能に知性を認め、コードを書き、エンジニアとソフトウェアを開発する。しかし、『絵の具と同じようにテクノロジーは道具でしかない』というスタンスの作家も多いのです」
一方、ビデオゲームの制作に使われるゲームエンジンを使えば、現実と異なる世界観を直ちにビジュアライズし、物語を紡ぐことも可能だ。
「仏教の実践者であるルー・ヤンは、自身のアバターにその教えを内包する存在として物語を語らせています。同じようにして、人種やジェンダーによる制約の一切ない理想郷を描く作家もいます」
現実には叶わない理想、失われつつある知見や叡智を呼び起こし、仮想空間でその世界を生きる。
「あるイメージを瞬時に作り、流通させ、みんなで共有するスピード感はデジタルアートならではのもの」
AIと対話したり、ビデオゲームを遊ぶように作品を操作できるなど、インタラクティブな体験も楽しめる。展示はメタバース上で生まれた最初の人間という設定の《ヒューマン・ワン》がデジタル空間を旅する作品から始まる。展示を重ねるごとにアップデートし続けている《ヒューマン・ワン》の旅は社会を映す。今回はどんな姿を見せるのか。スマホの画面で完結しない、アートの最前線が待っている。
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ビープル《ヒューマン・ワン》2021年‐展示風景:「ビープル:ヒューマン・ワン」M+(香港)、2022‐2023年 撮影:ロク・チェン
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アドリアン・ビシャル・ロハス《無題21(「想像力の終焉」シリーズより)》2023年 Courtesy:kurimanzutto
《タイムエンジン》というソフトウェアで数万年前や後の地球をシミュレート。それをもとに彫刻を制作。マシンと人のコラボ作品だ。
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佐藤瞭太郎《ダミー・ライフ #38》2025年
インターネット上に無数に存在するキャラクターのアセット(素材)を取り込んだ物語世界は、二次創作的ながら不穏な空気をはらむ。
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ルー・ヤン(陸揚)《独生独死―自我》2022年
自身の顔をスキャンしたというアバターは仏教実践者でもある。ゲームエンジンを用いて制作した仏教的な仮想世界を旅するように進んでいく。
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アニカ・イ《Öñ0K×ñ£0K×ñ(「Kñ†M£M[量子泡]」シリーズより)》2024年 Courtesy:Gladstone Gallery 撮影:デヴィッド・レーゲン Ⓒ Anicka Yi / ARS, New York / JASPAR, Tokyo, 2025 G3746
収集してきた画像や過去の作品画像を生成AIに取り込んで制作したレリーフのような絵画作品。モチーフを新しく展開させるのは一種の「知性」なのだろうか。
INFORMATION インフォメーション
マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート
森美術館 東京都港区六本木6‐10‐1 六本木ヒルズ森タワー53F 開催中~6月8日(日)10時~22時(4/29、5/6を除く火曜は~17時。入館は閉館の30分前まで) 会期中無休 一般2000円ほか※日時指定券 TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)
anan 2435号(2025年2月19日発売)より