ジェギュは息子にも公正であることを望んでいる。“アッパチャンス”を使うことを拒んだんです。
「シナリオを読んで、ジェギュの心情がよくわかりました。人間は誰もが二面性を持っていて、本作はそれを親と子を題材に描いている。これまでは想像力が必要な役柄が多かったのですが、今回は自分が本来持っているものを引き出して演じることになるだろうなと思いました。それに、私自身も父親ですしね」
『満ち足りた家族』でホ・ジノ監督と2度目のタッグを組んだチャン・ドンゴンさん。実利優先の弁護士である兄ジェワン(ソル・ギョング)と、常に道徳的であろうとする医師ジェギュ。生き方は対照的でも、それぞれが満ち足りた家庭を築いていたはずの兄弟が、子どもたちの秘密に直面して、困難な選択を迫られることになるサスペンスだ。
「私が演じるジェギュは周囲から尊敬される医師であり、自身も善い行いをしたいと思っている。だからこそ、悪人の弁護も引き受ける兄を嫌いだったりもする。ジェギュ自身にも利己的な部分や弱さはありますが、それを隠すのではなく正しい生き方をしようと努力している人物だと捉えました」
その実直さは一人息子に対しても表れる。進学に有利になるボランティア活動を、自分が働く病院ですることを嫌がるのだ。
「自分の勤務先で受け入れるのは、公正じゃないと考えるのがジェギュなんですね。息子にも正々堂々とした人であることを望んでいるし、自分もそうありたい。韓国では父親のコネを使えることを“アッパチャンス(パパチャンス)”と言いますが、ジェギュはそれを拒んだんです」
それでも、我が子の重大な局面では倫理観が揺れ動くのが親というもの。それは人生哲学が異なるジェワンも同じ。選択をめぐって深まる対立に、名優たちが魅入らせる。
「ソル・ギョングさんとは初共演ですが、一緒にお酒を飲んだりする仲なので兄弟役もすんなり演じられました。シナリオではジェギュが兄に対してもっと攻撃的な印象でしたが、ソル・ギョングさんのジェギュに対する態度には想像していたより柔軟さがあったので、私も演技を修正したんです。反目しても兄弟だからこその絆を醸し出せたのは、ソル・ギョングさんのおかげです」
同じ状況に置かれたらどうするか。俳優陣でも何度も話したそう。
「きっと誰もが正しい答えはわかっているとは思うんですね。でも、観る人がこの親たちに感情移入せずにいられないのは、人間は正解とはまた違うことを考えてしまうものだから。社会の価値観や秩序は変わっていきますが、一番の基本になるのは人間の良心。それは変わらないと思うので、できるかぎり良心に従って選択していくのが大切ではないでしょうか。皆さんには、この映画を観て、子どもを持つのが怖いと思わないでほしいですね(笑)」
その佇まいからもジェギュ以上の誠実さが伝わるドンゴンさん。やはりアッパチャンスは使わないと決めているか尋ねると、笑顔で答えが返ってきた。
「うちの子たちはまだ幼いので(笑)。家族で食事に出かけたとき、私に気づいてくださったお店の方がサービスで出してくださるものを、ありがたくいただいているくらいですね。もし、将来、俳優になりたいと言い出したら、知り合いに紹介したりはできるでしょうが…。でも、あまり使うべきではないと思っています」
PROFILE プロフィール
チャン・ドンゴンさん
1972年3月7日生まれ、ソウル特別市出身。『友へ チング』(’01)、『ブラザーフッド』(’04)など、韓国映画興行史上に残る記録的ヒット作で、日本でも大人気に。威厳ある王タゴンを演じたドラマシリーズ『アスダル年代記』がDisney+にて配信中。
INFORMATION インフォメーション
満ち足りた家族
対照的な人生哲学を持ち、それぞれに成功した兄弟。子どもたちの秘密に直面した彼らの選択は? 監督/ホ・ジノ 出演/ソル・ギョング、チャン・ドンゴン、キム・ヒエ、クローディア・キムほか 全国公開中。Ⓒ2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED