自分を食べようとしたきつねに、愛の告白をするうさぎ…涙なしには読めない『けがわとなかみ』

エンタメ
2024.12.24

類家海『けがわとなかみ』2

自分を食べようとしたきつねに、愛の告白をするうさぎ。うさぎがその思いに至った理由とは…。第01話から涙なしには読めない類家海さんの『けがわとなかみ』を大プッシュしたい。

捕食者と被食者の愛の物語。大切な誰かと、わかちあいたくなる。

弱肉強食の野生において、食べる側のきつねと食べられる側のうさぎが交流していくことはふつうはあり得ないわけだが、本作には、そんな奇跡を信じたくなるほど美しく優しいエピソードが詰め込まれている。

「アニメや絵本でも昔から動物キャラが活躍する作品が好きで、自分で描くときも自然とそうなりました。キャラデザインにおいては、精巧さやリアルさにこだわらず、絵だからこそ表現できる可愛らしさなどを大切にしています」

きつねへの一途な思いを叫ぶうさぎに対し、友達ぎつねや池のコイ、鳥たち、なによりもきつね自身が「なぜだ、おかしい」と訝しむ。それでも、うさぎは揺らがない。

「私自身はきつねの側に共感するというか、きつねみたいに自分で勝手に考えすぎて落ち込むことが多いんです。そういうときに、誰かにかけてほしい言葉や慰めになる行動ってこういうのかなと。そんな願いを素直に描くようにしようと思って、うさぎや動物たちに託しています」

2巻に入ると、きつねが害獣駆除用の仕掛けに捕まったり、うさぎがきつねの小動物狩りの場面に出くわしたりと、波乱が起きる。〈まっすぐな言葉だから 心の奥まで届くんだろ〉〈怖いのも 悲しいのも 嬉しいのも 全部 きつねさんがくれたものだから 全部全部大事だから〉等々、作中に書かれた沁みる言葉のシャワーに清められる気分だ。

「いわゆる惹句のようなものを思いついても、時間が経つほどに言葉が劣化してしまう気がするのでメモに残したりはあまりしません。そのときどきの感情を大切にしています」

きつねやコイがひそかに抱いていた悩みやコンプレックスに触れ、そこに共感する読者も多いらしい。

「家族や親戚や友人とのコミュニケーションに苦しんでいる人は、思った以上に多いのだなと」

ちなみに、読者にとって気になるのは「うさぎときつねはこの先も一緒にいられるのだろうか」かも。

「実は、まだ私にもわかりません。みなさんが読んでくださるおかげで、うさぎときつねは前へ進んでいくことができます。二匹の成長と、愛の行方を最後まで見届けていただければ幸いです」

PROFILE プロフィール

類家 海

るいけ・うみ マンガ家。2001年、青森県生まれ。’22年末に自身が通う美術大学の課題で描いたマンガをXに投稿。大きな反響があり、商業デビューへ。

INFORMATION インフォメーション

『けがわとなかみ』2

うさぎときつねのほんわかロマンス以外にも、ペットうさぎとの共闘やコイとカラスの友情など、感動がいっぱい。Webマンガサイト「くらげバンチ」で連載中。新潮社 770円 Ⓒ類家海/新潮社

写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2427号(2024年12月18日発売)より

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