自身の経験がもとになったエピソードも。中国人女性によるBLマンガ道『日本の月はまるく見える』

エンタメ
2024.12.09

本作『日本の月はまるく見える』の主人公・夢言(ムゲン)は、著者の史セツキさんと同じく中国出身。マンガ家になることを夢見ている。

日本の月“だけ”がまるいのか!? 中国人女性によるBLマンガ道。

「夢言と違って私の場合は、留学生として日本に来てからマンガを描きたいと思うようになりました。最初に興味を持ったのは恋愛マンガでしたが、デビューするだけでも難しいのに、特別なものを描ける自信がなくて。中国人の私だからこそ描ける物語は何だろうと思ったのが、この作品のきっかけになっています」

夢言がこよなく愛しているのは、日本のBLマンガ。しかし彼女が暮らす中国では徐々に規制が厳しくなって、自由に描くのもままならず、日本でマンガ家になることに思いを馳せる。そんななか母親がお見合いの話を持ってくるのだが、その相手として再会するのが同級生の致遠(チエン)。以前、夢言が描いたBLを真っ向から否定した、因縁の人物だった。

「私自身の経験がもとになったエピソードもあります。中学のときに趣味でBL小説を書いたことがあるんですが、授業のあと、前の席の男の子が『何か読みたい』と言うので渡したら、無言で返されました(笑)。夢言たちみたいに険悪にはならなかったのですが、あのとき私は相手がBLを受け入れるかどうかも考えずに渡してしまったので、こういう展開もあり得るなと思ったんです」

口うるさい親を安心させるため、ふたりは付き合っているふうを装うが、夢言には致遠が直男(ジーナン)(空気が読めず融通のきかない男性)にしか映らない。そして日本のBLマンガ誌の編集者から届いたメールを頼りに渡日した夢言は、カルチャーギャップを感じつつ夢に向かって奮闘する。

「夢言はいつもやる気があって、諦めないタイプ。私も羨ましいくらいなのですが、なぜ諦めないで描き続けられるのか、リアリティを感じてもらえるよう意識しています」

「生きる意味」とまで捉えているBLを享受でき、何にも縛られず自由に表現できる日本は、夢言にとって理想の国だ。しかしその思いが強いゆえに、致遠のような人を自分の外側に追いやっていた視野の狭さにも、彼女はやがて気づいていく。

「タイトルは、日本の『隣の芝生は青い』と似た意味を持つ中国の言葉が由来なのですが、外国のものは何もかもいいと思う人を揶揄するニュアンスもあるんです。夢言には日本の月がまるく見えるけど、母国の月もそう見えるといいなと思っていますし、致遠と夢言も違うからこその関係性を描いていきたいですね」

PROFILE プロフィール

史セツキ

し・せつき 『嘘をつく人』で第80 回ちばてつや賞一般部門奨励賞受賞、『往復距離』でモーニング月例賞2021年12月期佳作受賞を経て、本作を連載開始。

INFORMATION インフォメーション

『日本の月はまるく見える』2

母国・中国では自由にBLマンガを描けなかった夢言。かつて自分の作品を否定した同級生の致遠に苛立ったり、励まされたりしながら夢を叶えようとする物語。講談社 759円 Ⓒ史セツキ/講談社

写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

anan 2425号(2024年12月4日発売)より

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