浦井健治「やりたい役者がごまんといる役だと思う」 『天保十二年のシェイクスピア』で三世次を演じる

エンタメ
2024.11.29

シェイクスピアの戯曲37作の要素を詰め込み、江戸時代を舞台に一本の作品に仕立てた『天保十二年のシェイクスピア』。2020年に藤田俊太郎さん演出で上演した際、きじるしの王次役で出演していた浦井健治さん。コロナ禍で途中で公演が中止になるなどの苦難もあったが、出演していた高橋一生さんが菊田一夫演劇賞を受賞するなど躍動感あふれる舞台は高い評価を受けた。今回、浦井さんは、高橋さんが演じていた佐渡の三世次(みょうじ)を演じる。

熱意を持って声をかけてくださった志に応えたいです

「前回の稽古場が、それぞれの俳優がやってみようと思ったことにどんどんトライできる空気があったんですね。同時に、木場勝己さんをはじめとした諸先輩方がやりたいことに近づくための助言もくださり、とてもありがたい現場で。だからまたみなさんとご一緒できるというだけで、身震いするくらい気持ちが高ぶります。

しかも、僕が三世次ですからね。お話をいただいたときは、『自分が三世次ですか?』と聞き返しました。でも4年前、みんなで作ってきた作品が千秋楽を迎えることなく終わってしまったという無念さもあり、それをもう一度やれることと、役を替えて挑戦させていただけるのは役者冥利に尽きますし、熱意を持って声をかけてくださった志に、ぜひ応えたいと思いました」

片足が不自由で顔に火傷を負った三世次は、悪知恵を働かせ任侠一家の抗争を利用しのし上がってゆく。シェイクスピアを少しご存じならば、多くの俳優が演じ甲斐のある役として挙げる「リチャード三世」を踏襲した役であることは一目瞭然。

「やりたい役者がごまんといる役だと思うんです。僕としては、前回王次として間近で見ていた高橋一生さんの三世次が魅力的で、すごくリスペクトしていたこともあり、プレッシャーはあります。ただ、台本を読んでいても稽古をしていても、一生さんのミザンス(立ち位置)やお芝居が僕の中に刻まれています。芸の世界には先人の芸を見て倣うという伝統がありますが、まさに頭の中のお手本に倣うような不思議な感覚があります。今回僕に声をかけてくださったのには、そういう理由もある気がして、僕と一生さんを重ねた三世次でいいのかなと思うんです」

この役を演じるにあたって演出の藤田さんからは「三世次は殺(あや)めた人間を自分に取り込むことで、生きている意味を確立していった人」だと説明を受けたそう。

「彼は、いつ死んでもいいっていうスタンスから始まっている人なんですよね。そこから少し知恵を働かせてみたらトントン拍子にいってしまったからこそ、悪事もエスカレートしてしまった。言っちゃいけないことを言う快感とか、悪が魅力的に見えたりだとかもあったと思うし。でも人にはそういう一面があると思うんです。約50年前の井上ひさしさんの作品ですが、今の時代に身につまされるものもすごく多いです」

さまざまなアイデアが飛び交う現場で、浦井さんのスタンスとは?

「どちらかというと、いろんな球を投げて玉砕するタイプだと思います(笑)。やっぱり稽古場で演出家の方や共演の方々と過ごす時間の中で生まれるものを大事にしたいんです。そこで新しい音や新しい声に出合うことも多いですし」

それは観客側も同じ。グランドミュージカルでのノーブルな印象が強いが、劇団☆新感線や三谷幸喜さんの舞台では突拍子もない役を振り切って演じたり、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』でドラァグクイーンを演じるなど、新しい“浦井健治”像を更新し続けている。

「自分の可能性を広げられる環境に身を置けていることに感謝です。年齢的にも、がむしゃらさだけでなく、今は役を入れる器の鮮度や透明感をどう保ちどう育てていくかを考える時期なのかなと考えています」

PROFILE プロフィール

浦井健治

うらい・けんじ 1981年8月6日生まれ、東京都出身。2015年には読売演劇大賞最優秀男優賞を受賞。俳優としてだけでなく近年は歌手としても活躍。近作にミュージカル『カム フロム アウェイ』『ファンレター』などがある。

INFORMATION インフォメーション

祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』

江戸末期、美辞麗句を並べて父親の懐に入り込み、任侠の父親の跡目を継いだふたりの娘だが、その後、骨肉の争いを繰り広げていた。その混乱の中、佐渡の三世次(浦井)が台頭し…。12月9日(月)~29日(日) 日生劇場 作/井上ひさし 音楽/宮川彬良 演出/藤田俊太郎 出演/浦井健治、大貫勇輔、唯月ふうか、土井ケイト、阿部裕、玉置孝匡、瀬奈じゅん、中村梅雀、章平、猪野広樹、綾凰華、福田えり、梅沢昌代、木場勝己ほか 平日S席1万5000円 A席1万円 B席5000円ほか 東宝テレザーブ TEL:03・3201・7777 大阪・福岡・富山・愛知公演あり。

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写真・内田紘倫(The VOICE) スタイリスト・吉田ナオキ ヘア&メイク・山崎順子 インタビュー、文・望月リサ

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