中村莟玉「歌舞伎とは違う経験がしたくて今回の挑戦を決めました」 舞台『応天の門』に挑む

「お話をいただいてから原作を読み始めたんですけれど、起こる事件が毎回面白くて、舞台のことを忘れて没頭してしまったくらいです。物語のメインになる道真や業平がクールなイメージなぶん、僕が演じる長谷雄は真逆な感じで…いいキャラだなと思って読んでいます」

上演が発表された際のリリースで「普段の自分そのままのキャラクター」とコメントしていたけれど…。

「どちらかというと、本人は一生懸命なつもりだけれど残念な感じというか、空回りすることが多いんですよね。歌舞伎では、長谷雄が追いかけているような女の子を演じることが多いのですが、そういうところを必死に隠してやってきたのに、一体どこでバレたんだろう、と（笑）」

浅はかさゆえ自らトラブルを引き寄せる長谷雄に、道真は呆れながらも手を差し伸べる。

「僕も周りの人に助けてもらってばっかりです。歌舞伎界の方々って、劇場の撤収がすごく早いんですよ。1か月同じ劇場で公演していても、1日でパッと片付けて、また別の公演地に移動するんですけれど、僕は荷造りがとにかく苦手。相部屋の先輩がいつまでも終わらない僕を見かねて手伝ってくれてようやく…みたいなことを今でもやっています」

歌舞伎以外の本格的な舞台は、莟玉さんにとってこれが初めて。

「僕は歌舞伎役者になりたくてこの世界に入ったので、歌舞伎以外のお芝居って考えたことがなかったんです。でも養父（中村梅玉／ばいぎょく）は、時代に合わせて考え方を変化させていくことも大事だという考え方で。外の仕事で力をつければ後々の歌舞伎のためになると言われて、なるほどなと思ったんです」

幼いときに歌舞伎の舞台に魅了され、門閥外ながら7歳で歌舞伎界に入り、その後養子に。次代を担う若手として期待されているひとり。

「歌舞伎とは違い、今回は自分の中から出てくるアイデアを試されたり、演出家の思い描くものにどれだけ応えられるかが求められる現場だと思うんです。そういう経験がしたくて今回の挑戦を決めたわけですから、今は楽しみでしかないです」