放送されるたびにXでトレンド入りするなど、大きな反響を呼んできたテレビ東京の番組「TXQ FICTION」シリーズ。「イシナガキクエを探しています」「飯沼一家に謝罪します」「魔法少女山田」に続く第4弾「UFO山」が現在、4夜連続で放送されている。最終話放送直前、監督の近藤亮太さん、テレビ東京プロデューサーの大森時生さん、そして、「TXQ FICTION」シリーズのファンである、オモコロ編集長の原宿さんによる鼎談をお届け! 作品のテーマや制作過程など興味深い話が満載です。

Index

    UFOを「(笑)」としてではなく描きたかった

    ── まずは、登山家とUFOをテーマに選ばれた理由を教えてください。

    原宿 そうですね、やっぱり〜…

    ウェブメディア「オモコロ」編集長の原宿さん

    ── …原宿さんは今回、作品自体に携わってたのでしょうか?(笑)

    大森時生(以下、大森) 原宿さんは

    をずっと観てくださっています。毎回、オモコロの「編集長日記」とかに作品のことを書いてくださっていて。

    原宿 でも、僕はUFO世代なので。「(ビートたけしの)TVタックル」のUFO論争や「(奇跡体験!)アンビリバボー」を観てきたオカルト世代ですから、UFOを取り扱ってくれるということは、すごくうれしかったです。企画のことは何も言えなくてすみません(笑)。

    近藤亮太(以下、近藤) UFOをやりたいねというお話は、かなり早い段階から出ていたんです。僕も90年代とかUFOがすごく流行っていた時期を過ごしてきているので。ただ、ものすごく扱うのが難しい題材ではあるんですよね。でも、「TXQ」のフォーマットであれば、改めて面白く描けるんじゃないかなということを漠然と思っていました。

    そこから話を作る段階になったときに、僕の地元である北海道で撮影したいなと思ったんです。作中でも山とUFOの相性のよさが語られますが、11〜12月であれば雪山で撮れるな、雪山で起きた事件とUFOがつながったら、謎として魅力的になるんじゃないかな、と自然と広がっていきました。

    大森 僕は今年30歳ですが、正直、生きてきた中でUFOに真剣だったタイミングがなく、ずっと“UFO(笑)”だったんです。でも、自分の理解を超えたものがやってくる瞬間の怖さと同居するワクワクみたいなものは、人間の割と根源的な部分に紐づいているなと。それを“(笑)”ではなく描けたら面白いよなと思っていました。

    あと、今回プロデューサーとして関わっているゾゾゾの皆口(大地)さんがUFOに対してすごく熱かったことも大きいです。原宿さんにプレビュー用の映像を観ていただいたときは、討論番組のシーンの映像がいいとおっしゃっていただきましたよね。

    原宿 再現度がめちゃくちゃ高かったですね! 大槻(義彦)教授が全部を「プラズマだ」と言うような感じとか、たま出版の韮澤(潤一郎)さんがめちゃくちゃなことをいっぱい言うのをお茶の間で見ていたので。この感覚、懐かしいなと思いましたね。

    「UFO山」ティザー動画。かつてテレビで人気だった討論番組らしさを感じる再現度!

    大森 現代において、みんな心霊や呪いは認めるのに、UFOとなった瞬間、急に揶揄の対象になったり、怖がるものじゃないみたいに言われるじゃないですか。その明確な線引きが面白いし、不思議だなと。両方とも信じていない僕からすると一緒だし、実在する可能性とか確率的には、UFOのほうが高い気がするんですけど。なぜ“論外”みたいになるのかを知りたいという想いがあったのかもしれません。

    原宿 飛行機のパイロットでUFOを見たことがあるという人も結構いますもんね。交信記録とかもありますし。“(笑)”になったのは、宇宙人の解剖映像がよくなかったんですよね。ロマンが急になくなったような感覚がしましたね。

    近藤 『X-ファイル』が大好きなんですけど、「UFOはいます!」「いません、すべて政府の陰謀でした」「でも本当はいます」「それも嘘かもしれません」みたいに、永遠にその議論だけをしている番組だったりするわけです。放送当時はギリギリまだ「そうなんだ〜」という気持ちで見られていたものが、だんだん「そんなわけないよね」となっていったんですよね。特に、ノストラダムスへの盛り上がりが終わったころから、UFOは恐怖の対象ではなくなってしまった感触がありました。

    でも、ちゃんと怖く描かれていたはずなんですよね。一番有名な、宇宙人がふたりの大人に手をつながれている写真には衝撃を受けたし、怖いものとして記憶されていましたから。だからこそ、今作では、UFOの存在を信じられるような語り口でやりたいとは思っていました。

    映画監督の近藤亮太さん。恐怖表現のこだわりからご自身のホラー原体験までお話しいただいたインタビューはこちら

    作中には、実際に撮影されたUFOの映像も

    ── そもそもUFOというものについて、最初に言い始めたのは誰なのでしょうね?

    大森 それこそ本編の第2話で、UFOの有識者が語ってますよね。

    近藤 実在する研究家の方で、「空飛ぶ円盤」の概念が広まったきっかけとなった事件のことなども紹介されています。UFOが絡んでいる事件は大量にあるんですよね。「見た」という人はたくさんいるのに、なぜ、「UFOなんてありえない」と言う人が多いかということも、今作を作る上でのスタンスのひとつとしてあります。

    原宿 あとは、UFOだと解釈したらUFOになる、みたいなこともありますよね。空に光っているものって結構見るじゃないですか。多分、飛行機なんだけど、UFOだといえばそうなる。UFOとは人の内側にこそ存在するかもしれないとも思えます。

    近藤 今作に出てくるUFOの映像は、実際に撮影されたものも使わせてもらっています。それを観ると、(UFOを)見た人の興奮具合が本当にすごいんですよね。その人たちには自分の見たものが「UFO以外の何物でもない」と信じられる時間が確かにあって、そうしたものの蓄積が、現在のUFO神話の根底にあるんだろうなと思いました。

    原宿 物理的に何かが飛んでいることではなく、“それをその人が観測してしまった”ということまで込みでUFOという現象なんでしょうね。

    大森 たしかにそうですね。今回の「TXQ」は、UFOがテーマではありながらも、引いて言えば「ポスト・トゥルース(個人的な感情や信念が客観的事実よりも人々に影響を与えて動かす状況)時代に人は何を信じるのか」もしくは「何を信じてしまうのか」という陰謀論にも接続する話でもあると思うんです。SNSとかもそうですが、これまでにないくらい、何をもって何を信じるかということが“その人”に委ねられている今の時代の、恐ろしさや不安というものに到達できているといいなと思います。

    テレビ東京のプロデューサー、大森時生さん。話題を集めた『行方不明展』そして『恐怖心展』も手がけており、「ananweb」では人気ホラー作家の梨さん、株式会社闇の頓花聖太郎さんと鼎談を実施

    近藤 多分、自分の目で見たということが一番価値のある時代になっていくんでしょうけど、それはそれで危険じゃないですか。「UFO山」では、いろいろな人がUFOを見たという話をしていて。本当に見た人の映像や語りを引っ張ってくることもあれば、今作のために作り上げたものが登場することもあるんですけど。いろいろなレイヤーがあるなかで、“でも、この人が見たと言っている以上はどうしようもないな”みたいな瞬間があって。それが信じられなかったとしても、だからといって、“あなたが見たものはUFOじゃない”と証明してどうするのだろう、と思ったんですよね。

    現実的な解釈をすることも知的な行為なのかもしれないですが、何をすると楽しくなるかと考えると、“UFOは本当にいる”という前提から話を始めたほうが絶対に面白いんです。おそらく、今の方は、UFOはいないというところからスタートすると思うんです。それが、「TXQ」という枠のなかで「UFO山」を観始めたときに、みなさんがどちらの側に立ってくれるのかということが、不安でもあり、楽しみでもあります。

    大森 これまでの「TXQ」、たとえば「飯沼一家に謝罪します」の感想でも、見てくださる方によってリアリティを感じる部分と感じない部分が違っているんですけど、「呪い」は存在するものとして見てくれていたんです。それがUFOになるとどうなるのかという投げかけでもありますね。

    ── 令和にUFO論争が巻き起こるかもしれませんね。

    近藤 そうなったらいいですよね。(スティーブン・)スピルバーグ監督が久しぶりに撮ったUFO映画が来年公開されますし。

    これまでの「TXQ」シリーズとは全く違う面白さの作品に

    ── 近藤監督は、今作を手がけるにあたり大変だったことはありましたか?

    近藤 物語をみつけながら作る、みたいな感じになったところですね。もちろん、大枠で何を作るかということや、インタビューなどの素材を撮っていくことは決まっています。ただ、細かいブリッジみたいなものは、基本的に作り始めてみないと全然わからなくて。“この話、今どこに向かっているんだっけ?”みたいなことが、編集しながらじゃないと見つけられないということが大変でしたね。

    普段、僕が作っている映画の場合は、脚本があり、その通りに撮っていけば、基本的に大きく外れたものにはなりません。それが、「TXQ」という枠で作られるモキュメンタリー作品は、完成形がずっと不定形みたいな状態で。だからこそ、プロデュースをするメンバーや実際に作る方、編集をする方など、いろいろな人の集合知として作品が作られていく感じなんですよね。そこが、めちゃくちゃ難しかったです。

    ── シリーズとしては4作目になりますが、今回新たにチャレンジしたことなどはあるのでしょうか?

    大森 今までで一番“すべりそうな”テーマだなと思っています。UFOという僕としては手堅くないジャンルを選んだことが、最大のチャレンジですね。皆さんのリアクションが想像ついていないところがあるんですけど、これまでとはまったく違う面白さになっているなと思います。

    近藤 本当に4作目だからこそできるテーマですよね。1や2ではできないし、3作目でもまだ不安なところがあるというか。こんなことを言っていいのかわからないですが、通常の伏線回収や謎解きみたいなものが、ことごとく無効化されていくといいますか。究極をいうと、「全部UFOです!」と言ってしまえば終わるようなことを、いかに物語のなかで見せていくのか。「夢オチ」くらいの禁じ手ですから。

    大森 でも、「なんで禁じ手なんだろう」という話でもあるんですよね。霊や呪いの仕業はいいのに、UFOの仕業でしたでは許されない感じがあるのはなぜなんだろうと。

    原宿 確かに。『サイレントヒルf』というゲームにUFOエンドというのがあって、主人公がUFOに連れ去られて、この街で起こったことはすべて宇宙人が原因でした…みたいな内容なんですけど。それも完全にギャグとして作られているんだろうし、“宇宙人がいるならなんでもありじゃん…”ってなってしまうという。やっぱり、UFOが出てきた瞬間、創作としては難しいものになるんですかね?

    近藤 そう思いますよ。正直、今作が怖いのかどうか、よくわからなくなってきました(笑)。

    大森 でも、最近、「TXQ」シリーズは別に怖くないんじゃないかと思っているといいますか。

    近藤 扱う題材によっても違うし、怖がらせることを主目的としていない作品もあるので。

    大森 ホラーだとは言っていないですからね。

    UFO研究家が監修して、リアリティを追求

    ── この番組を観るとUFOに詳しくなれそうです。

    近藤 それは間違いないですね。今回、脚本協力という形で、僕の映画学校の後輩であり、UFOにめちゃくちゃ詳しい比嘉(光太郎)くんに参加してもらいました。

    大森 おそらく、最年少のUFO研究家ですよね。

    近藤 まだ23歳で、雑誌『月刊ムー』のウェブ版「WEBムー」で記事を書いたりもしていますが、作中で出てくるUFO用語や考え方、討論番組の議論の内容などを監修をしてもらっていて。彼が持っているリアリティみたいなものが作品に生かされています。

    原宿 そんな熱量の高い若者がいるとは! 注目ですね。

    ── リアルといえば、今作もキャストの皆さんが、演じているように見えない、本当に存在していそうな方ばかりでした。どのようなところから探してこられるのでしょうか?

    近藤 いろいろなところから探してくるのですが、今回は北海道パートがめちゃくちゃ多かったので、現地でキャスティングした人もかなりいます。

    原宿 出た、「

    (沖縄のホラープロジェクト)」技法だ。

    近藤 まさにそうです。なかなか難しいのですが、モキュメンタリーの場合は、“設定がこうだから、それに基づいてこういう動きをしよう”みたいなことを考えすぎてしまう人は、向いていないことが多いかもしれません。だいたいの人間って、実は、そんなに個性がないといいますか。声質やしゃべり方のくせ、ちょっとした表情で生まれる個性はあっても、しゃべる内容や人格みたいなものに強烈な個性は宿っていないのではないかと思っているんです。

    だから芝居をするときに、内面を入れようとしちゃうと、“そんな人いないですよね” みたいな気持ちになることが多いし、逆に何も入れずに、“とにかくこれを言わなきゃいけないんだな”くらいの感じで言ってもらうと、リアルになりやすい。北海道でロケ地として借りていたお家のおじいちゃんに、「ちょっとこれを言ってもらっていいですか?」とお願いして言ってもらったセリフのほうが、リアリティがあったりするんです。それは、何もしようとしていないから。

    原宿 やる気がないほうがいいのか。でも、オーディションでやる気のない人を見つけるというのは大変そうですね。

    近藤 逆に、そのリアルまでをも演じられる人もいますけどね。ものすごくうまいか、完全に「無」のどちらかです。

    原宿 モキュメンタリーにおける演技論というのは面白いテーマですね。

    「TXQ」は、モキュメンタリーのど真ん中をやっていない

    ── ちなみに、最近モキュメンタリー作品が数多く作られています。そうした状況をどう捉えていらっしゃいますか?

    大森 むしろ、最後までやり続ければいいというだけだと思います。みんながやめても、やり続けます。

    近藤 少なくとも、僕たちは流行っているから作り始めた人間ではないという自負があるので。

    大森 あまり流行りの方向のフェイクドキュメンタリーを作っていない感じもあって。「TXQ」もブームの中核からは結構ズレていますしね。

    近藤 見てくださる方の数は割と多いし、ありがたいことに毎回反応をいただくのですが。「TXQ」という枠が、このなかであれば結構何でもやれる枠へと成長していっているなという気持ちもあります。大森さんが言うとおり、実はど真ん中みたいなことはあまりやっていないし、撮影をしているときも、普通のモキュメンタリーや心霊ドキュメンタリーみたいになりそうなプロセスはやらないようにしています。

    たとえば、スタッフが「これって、あれじゃないですか!?」と何かいいところに気づく、みたいなシーンって、本来であれば撮れないけれど、モキュメンタリーの常套手段みたいになっていますよね。特に大森さんですが、リアリティの求め方の水準が、たぶん、通常よりも少し高めに設定されているなと思います。

    大森 確かに、リアリティというものは何をもって、真実に見えるのかがだんだんわからなくなってるかもしれないです。それゆえにより突き詰めてしまうというか。

    近藤 通常であれば、「この人が知っていました」という都合のいい人が現れるのでいいんですけど、そうはしない。

    原宿 それで、後から必要なものを作って入れるという。すごい。

    大森 でも、正直なところ、そうしたからといって別に観客の方からウケていないのかなという感覚もあって…。

    原宿 はははは! 確かにそういう苦労ほど気づいていないかもしれないですね。でも、「UFO山」、続きが楽しみです。最後、どういうことになるのか。UFOをどう転がして…

    近藤 どう着地させるのか。

    大森 うまいですね(笑)。

    原宿 そこはやっぱり、すごく手腕がいると思いますので気になります。

    近藤 みんなが期待している方向じゃないところで終わらせている気がしますが…!

    大森 ちなみに原宿さんは、これまでの「TXQ」シリーズの中で一番どれが好きでしたか? 単純な興味なんですけど。

    原宿 やっぱり、「イシナガキクエを探しています」かな。ラストシーンで「ああ、この人はキクエさんを愛していたんだな」というウェットな方向に振れるのがすごく好きで。「怖い」と感じるものも、それが人間の愛から始まったんだと思うと、結構自分ごとのように思える。あのワンシーンで、物語の後味が変わったのがすごく好きでしたね。

    大森 じゃあ、今回の「UFO山」も好きかもしれないです。

    原宿 おお、楽しみですね〜!

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    Profile

    近藤亮太

    こんどう・りょうた 映画監督。第2回日本ホラー映画大賞受賞作を長編化した『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』で商業映画監督デビューし、ホラーファンから厚い信頼を得ている。「行方不明展」の映像作品などにも参加。

    大森時生

    おおもり・ときお テレビ東京プロデューサー。「TXQ FICTION」シリーズをはじめ、「祓除」「フィクショナル」など、フェイクドキュメンタリーを中心としたさまざまな番組を手がける。「BRUTUS.jp」でエッセイを連載中

    原宿

    はらじゅく ウェブメディア「オモコロ」編集長。YouTube「オモコロチャンネル」にも出演し、クセの強いキャラクターや独特の名付けセンスを披露。“今さらすぎる”トピックスをゲストと語るPodcast番組「原宿の今じゃない企画室」も好評配信中(「ananweb」でのインタビュー記事)。

    INFORMATION

    TXQ FICTION第4弾「UFO山」

    テレビ東京にて12月22日(月)〜25日(木)4夜連続放送(最終話は12月25日(木)深夜25時〜25時半)。見逃し配信はTVerにて。公式X

    Ⓒテレビ東京

    写真・内田紘倫(The VOICE) 取材、文・重信綾

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