食にまつわる作品を多く発表している、谷口菜津子さん。タイトルでピンときた人はなかなかの通といえそうだが、本作のモチーフは発酵。
過ちを抱きしめながら前を向く。再出発×発酵ストーリー
「どちらかというと健康や美容の意識より、変化していく過程の面白さで発酵に興味を持ちました。序盤に出てくる塩麹作りなどは特に、実験ぽいというか、育てていく感覚があってかわいく思えてくるんです」
ファッション誌の編集長になることを夢見ながら、不倫で会社を追われてしまった清水麦は、新人の頃に飲みに行っていた居酒屋「大豆堂」を訪れる。そこにいたのが、接客業をするにはマイペースすぎる米田マメ。店主もメニューも変わって閑古鳥が鳴いていたが、発酵オタクのマメに巻き込まれて、麦は店を手伝うように。店の立て直しと並行して描かれるのが、一度“腐ってしまった”麦の人生の立て直しだ。
「以前、自分も人間関係でギリギリなことをしかけた経験があって…。相手は許してくれたけど、どうしてこうなっちゃったのかとか、もし許してもらえなかったらどうやって生きていけばよかったのだろうと、考えることが多かったんです。ネット上でも、若さや無知で失敗した人を再起不能になるほど叩き潰すような空気がありますよね。そういう人たちが反省して、自分の土壌をもう一度作るための方法を、発酵とつなげて考えてみたかったのです。反省というテーマは、描きながら私のなかでも大きくなっていきました」
自身の過ちを簡単には許せない生真面目な麦を、ことあるごとに救ってくれるのがマメのおおらかさ。
「マメは空気が読めないというか、論理的に解決するような術はないけど、思ったことをパッと言ってくれるタイプ。現実でも、ズレているようなことを言われたのに、かえって楽になれるときがありますけど、そういうキャラクターにしたいなと思いながら描いています」
発酵について楽しく学べるだけでなく、作ってみたくなる料理がたくさん登場するのもうれしい点。
「発酵の工程は一見地味かもしれませんが、私としてはマジカルな変化を見守っている気持ちでいるので、その感動を絵でも伝えていきたいですね。食べ物を描くのは大好きですし、描きながら食べたくなっていることが多いです(笑)」
かけ合わせることで変化が生まれたり、時間の流れに身をまかせたり。人生を発酵になぞらえると、意外なヒントがあるかもしれない。
「マメと麦は仲がいいけど、深夜に長電話をする間柄とはちょっと違う。それでも一緒にいると肩の荷を下ろせたり、お互いが豊かになれるような、友だちとも家族とも違う関係性を描けたらいいなと思っています」
Profile
谷口菜津子
たにぐち・なつこ 『教室の片隅で青春がはじまる』『今夜すきやきだよ』など著書多数。『じゃあ、あんたが作ってみろよ』はドラマ化もされて話題に。
information

『まめとむぎ』3
マメと一緒に「大豆堂」の立て直しに夢中になりながら、いまだ罪悪感が拭えない麦。ついに、元不倫相手が現れて…。それぞれの関係に変化が起こる第3巻。双葉社 770円 Ⓒ双葉社/谷口菜津子
anan 2484号(2026年2月18日発売)より





















