稲垣吾郎「やればやるほど掴めない奥深さを感じる役です」 4度目のベートーヴェン役に

エンタメ
2024.11.09

あまたいる俳優の中で、一生付き合い続けられる役に出合える人は何人いるだろう。もしかしたら、稲垣吾郎さんはそんな幸運なひとりかもしれない。ベートーヴェン役を演じる舞台『No.9 ―不滅の旋律―』は、2015年に初演してから次で4度目の上演となる。

稲垣吾郎「ベートーヴェンを身近に感じられるようになりました」

「自分の俳優人生…なんて言うと大げさに聞こえるかもしれないけれど、生涯やっていけるような役がひとつくらいあってもいいと思うんです。もちろん、これがそう思わせてくれる作品で、そう思える役だからというのが大きい。毎回、どんなにやりきったと思っても昇華されたということがない。やればやるほど掴めない奥深さを感じる役です」

世界的に有名な天才音楽家ではあるが、激情的で変わり者の役。それだけに、「すごいものをもらったのに、いまだに借りてきたような感覚」とも。

「ベートーヴェンはその楽曲もですけれど、語り継がれているエピソードが同じ人物のものと思えないようなものだらけなんですよね。でもその掴みどころのなさが面白いなと思うんです。先日、久々に台本を読んだら、すでに100公演近くもやっているはずなのにとても新鮮に感じました。ひとつのセリフでも、以前とは違う感情が生まれたり、別の感じ方をしたり。ここまでやり続けているのも、まだ探究しがいがあるからこそでしょうね」

与えられた天賦の才、美意識やこだわり、一筋縄ではいかないキャラクター。どこか稲垣さん自身と役が重なる部分もあるような…。

「何度も演じているからかもしれないけれど、人間味あふれるベートーヴェンを身近に感じられるようになってきました。僕は大声を張り上げたりはしませんけど、彼が持つエキセントリックなところ、その激しさって、自分の中にもなくはない気がするんです。感受性豊かでデリケートな面があったり、恋した女性に熱烈なラブレターを書く情熱的なところがあったりするのも理解できる。意外に、身近にいたら結構話しやすい人だったんじゃないかなと思うんですよね。偉大な音楽家だからこそ、変わった面が誇張されて伝わった部分もある気がしますし」

ただ、演じるには相当エネルギー量が必要とされる役のはず。

「たしかに大変ではあるけれど、それは僕だけではないからね。この舞台では、音楽をプロのピアニストの方々が生で演奏しているんですね。彼らも毎回ベートーヴェンになりきって弾いてくださっている。だから僕としては、彼らと一緒に演じているみたいな感覚もあるんですよね」

演出は白井晃さん。美的センスと知的なユーモアで、観客の想像力を刺激するような美しく重層的な舞台を生み出す人だ。

「抽象的な表現もされる方ですが、掴みどころなく終わらせない緻密な計算と研究というきちんとした裏付けがあって演出されているんです。だから稽古は、立ち位置ひとつまでとても細かいですけど」

映像のみならず、コンスタントに舞台にも出演しているが、「お客さんと同じ空間で、一緒に感じ合うことができるのが楽しい」と語る。

「映像には映像、舞台には舞台でしか味わえない喜びがあるんですよね。これはライブも同じだけど、どこかお客さんに動かされているようなところがある気がするんです。終演した後に舞台や客席に行くと、そこに残った熱気みたいなものを感じるんですよね。その後、スタッフの方が舞台上をきれいにして次の公演準備を始めると、余韻は消えて新鮮なゼロの状態に戻っている。毎回1公演終わるたびに白紙に戻って、きれいにリセットされる感じも、すがすがしくて気持ちいいです」

役柄に絡めて、音楽の話題も少々。稲垣さんは8月に、なんと5年8か月ぶりとなる新曲「SEASONS」をリリース。これまで何度となく歌うことに苦手意識があるという発言をしていただけに、その想いを知りたかった。

「歌うこと自体は嫌いではないんです。ただやっぱり難しいなという想いはあります。それでも、新しい地図でファンミーティングをやるときに、毎回同じ曲を歌うのも申し訳ないなというのが一番大きな動機でしょうか。僕らにとってとても大切な場で、そこにファンの方々は足を運んでくれているので、喜んでくれたらという気持ちです」

ならば、演じるということにはどんな想いがあるのだろうか。稲垣さんといえば、もとより悪役などまで幅広く演じてきた人ではあるが、近年は人間のグロテスクな内面をさらけ出すような生々しさのある役柄も引き受け、俳優として着実に実績を重ねている印象だ。

「初めてドラマをやらせてもらったのが14歳くらいの頃なんですが、それまでは芸能界への漠然とした憧れで仕事をやっていた感じだったんですよね。でもそのとき、演じることが楽しくて、この仕事を一生やっていきたいと思いました。今もその想いは変わっていません。演じるって一体どういうことなのか、いまだに掴めていないし、上手い演技もよくわからないですけどね。ただ、正解がわからないから、ずっとやり続けられているのかもしれません」

PROFILE プロフィール

稲垣吾郎

いながき・ごろう 1973年12月8日生まれ、東京都出身。俳優としてのデビューは’89年のドラマ『青春家族』。最近の出演作に、映画『正欲』、ドラマ『燕は戻ってこない』など。ソロ曲「SEASONS」は現在配信中。

INFORMATION インフォメーション

『No.9 ―不滅の旋律―』

12月21日(土)~31日(火)東京国際フォーラム ホールC 2025年1月11日(土)・12日(日)久留米シティプラザ 1月18日(土)~20日(月)オリックス劇場 2月1日(土)・2日(日)アクトシティ浜松 大ホール 演出/白井晃 脚本/中島かずき 出演/稲垣吾郎、剛力彩芽、片桐仁、南沢奈央、崎山つばさ、中尾暢樹、岡田義徳、深水元基、松田佳央理、小川ゲン、宮部大駿、正垣湊都・村山董絃(Wキャスト)、奥貫薫、羽場裕一、長谷川初範 キョードー東京 TEL:0570・550・799

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写真・樽木優美子 スタイリスト・黒澤彰乃 ヘア&メイク・金田順子 インタビュー、文・望月リサ

anan 2421号(2024年11月6日発売)より

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