染織の国から生まれるテキスタイルの物語。
須藤さんのディレクションの真骨頂といえば伝統的な染織技術と最先端テクノロジーの組み合わせだ。
「NUNOの制作を支える工場の多くは織りや染色、その他さまざまな加工に特化しています。一つのテキスタイルを世に送り出すため、複数の産地や工場、職人が協働し、技術を発揮。当たり前のように思われる生産のネットワークですが、実は日本で独特に発展した文化です」
と水戸芸術館現代美術センター・学芸員の後藤桜子さんは話す。
「須藤さん自身、職人のアイデアに背中を押されたり、『私を奮い立たせるアイデアを提供するのがデザイナーの役割』と技術者から鼓舞されることもあったそうです」
展示の核となるのはこうした舞台裏の臨場感が伝わる7つのインスタレーション。特殊な針山を用いるニードルパンチ技法の工程を再現していたり、渦巻き状のリボンが連なるテキスタイルの工程を追うインスタレーションでは、リボンが水に浸される瞬間を捉えた息を呑むような映像を見ることができる。
今にも動き出しそうなダイナミックな演出の展示《こいのぼり》も見逃せない。日本が培ってきた染めと織りの技術が結集した布から生まれるこいのぼりの姿は圧巻。水戸藩に由来する染色技法「水戸黒」を用いたこいのぼりも登場する。そのほか三角形が螺旋のようにねじれながら連続する同館のタワーをモチーフにした新作も。
「考え抜いて作られた一枚の布地はそれ自体が生き生きとして、使う人にも活気をもたらしてくれるもの。人の心を揺さぶるテキスタイルの多彩な可能性に、観る人一人ひとりが楽しみながら近づく機会になればと思います」
須藤玲子&アドリアン・ガルデール《こいのぼり》2008/2019(部分) 展示風景:「Sudo Reiko: Making NUNO Textiles」CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)Hong Kong、2019-2020 ©CHAT(Centrefor Heritage, Arts and Textile)Hong Kong
《糸乱れ筋》に用いられるニードルパンチ機(部分) 展示風景:「Sudo Reiko: Making NUNO Textiles」CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)Hong Kong、2019-2020 ©CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)Hong Kong
須藤玲子《糸乱れ筋》2006年 撮影:林雅之
須藤玲子《カラープレート》1997年 撮影:林雅之
展示風景:「Sudo Reiko: Making NUNO Textiles」CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)Hong Kong、2019-2020 ©CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)Hong Kong
須藤玲子:NUNOの布づくり 水戸芸術館 現代美術ギャラリー、広場 茨城県水戸市五軒町1‐6‐8 2月17日(土)~5月6日(月)10時~18時(入場は17時30分まで) 月曜休(祝日の場合は翌火曜休) 一般900円ほか TEL:029・227・8111
※『anan』2024年2月21日号より。取材、文・松本あかね
(by anan編集部)