“普通”ができないふたりでも、手を取り合えばできること。
「役のひとりが本当に愛おしくて、立っているのを見ているだけで泣けてしまうような存在感があったんです。『君がそこにいるのが嬉しい』みたいな心の動きって、膨大なエネルギーが渦巻いているんだなと思って、自分の中にあるその感覚と人生経験をベースにしながら、ストーリーの肉付けをしていきました」
勉強が苦手で、バイトも覚えが悪くて長続きしない小林は、乱暴なヤンキーとして周りから疎ましがられている。ある日、同じクラスに転入してきた宇野は、素直で明るいのだが、知らない人がたくさんいるところや、ルーティンではない状況が苦手で、日常のルールや困ったときの対処法を細かく記したノートを、肌身離さず持ち歩いていた。
「小林は『助けなくても何とかなるだろう』と第一印象で遠ざけられそうな子を想像して作りました。宇野くんに関しては、“人とは違うところ”をエンタメにしたいわけではないので“キャラクターにしすぎない”ことを意識しています。宇野くんの苦悩や喜びもできるだけ等身大に描くようにして、彼をどう捉えるかは読者の方々に委ねています。異質だと思っていた人の中に自分と同じものを発見したときの動揺を大切にしたいので、ギャップとして表現できていたら嬉しいです」
自分に自信がなく挑戦や努力を避けてきた小林は、失敗が怖くてしかたない。けれども、日常という宇宙を歩こうとする宇野に刺激を受ける。
「それぞれ自分なりのプライドを持っていることを一番大切にしています。劣等感や恥ずかしさはプライドがあるから発生する感情だと思うので、ダサく見えたとしても葛藤を蔑ろにしないようにしたいです。お互いを『かっこいいぜ!』と思っているふたりなので、支え合うというよりは影響し合って、経験値を積んでいく感じにしていきたいです」
1巻の後半では異なるタイプの新キャラクターも登場し、彼らの宇宙も少しずつ広がっていく。
「人間が大人になるまで人生を歩き続けるのは、とても難しくてすごいことだと感じています。彼らのその後も、大事件や大活躍みたいなものはあまりないかもしれませんが、でも人生波瀾万丈だよね……というのが描けたらよいなと思っています」
泥ノ田犬彦『君と宇宙を歩くために』1 ヤンキーの小林と、変わり者の転校生・宇野。“普通”ができないふたりが、楽しく生きるために奮闘する友情物語。Webマンガサイト「&Sofa」で連載中。講談社 946円 ©泥ノ田犬彦/講談社
どろのだ・いぬひこ マンガ家。アフタヌーン四季賞2022年秋のコンテストにて「東京人魚(トーキョー・マーメイド)」が準入選してデビュー。
※『anan』2023年11月29日号より。写真・中島慶子 取材、文・兵藤育子
(by anan編集部)