下町の路地裏を、サンダル履きでぶらぶら。日常感あふれる“撮影散歩”をリラックスモードで楽しんでくれた奥平大兼さん。
「カッコつけるのは苦手だから、こういう自然な感じはすごく心地いいです」
デビュー4年目にして数々の賞を受ける映画界期待の新星。そんな高評価をよそに、役作りは自問自答の繰り返しだ。
「映画の撮影は1年くらいかかるので、その間ずっと『これでいいのかな』の連続。そういうときは一人で抱えず、不安や迷いも含めて一緒に作っている方々の意見をしっかり聞きます。撮影時間には限りがあるけれど、そこで妥協したら観る人に絶対伝わるから」
真摯な役作りの原点は、2020年、世界的な評価を受けた映画『MOTHER マザー』。
「この作品ですごく注目をしていただいて、ありがたいことに褒められることが多くなって。半面、指摘してくれる人が減ってしまった。撮影でもOKは出てもちょっと違うなと感じることもあったので、以来クランクインの際に『違うと思ったらすぐ言ってください』と、周りの方にお願いするようになりました。率直に言い合うことで、お互いにより力強い気持ちで作品にのぞめると思うから」
撮影中はストイックそのもので、オフの時間も役の設定にある趣味に取り組む。
「自分の趣味は、役が終わってからです。特に大好きな服作りに没頭しているときは、自分ってこういう人間だったなと思い出せる、すごく大事なリセットの時間です」
服は作るのも着るのも大好き。なかでも憧れのデザイナーの一人、ジョン・ガリアーノの服作りには共感と尊敬を持っている。
「無条件に彼の作る服が好き。一方で有名ブランドのディレクターとして活躍して、ブランドと自分のやりたいことを調和させることもできる。一緒に作る人の思いと自分の感覚を両方生かすことの難しさは僕も感じているから、ジャンルは違っても、それができる人は素晴らしいなと思います」
そのひたむきな姿勢で難役に挑戦し続けてきた奥平さん。公開中の映画『君は放課後インソムニア』ではいつになく(?)等身大の男子高校生役で、リアルな青春を生きている。
「撮影前、監督に『学生時代を思い出して若返って』って言われたんです。やってみたら昔の気持ちに戻るって難しいんですよ! でも現場で同世代キャストとキャピキャピ過ごすことで無事、青春に戻れました(笑)」
いまは複数の作品を並行して撮るほど忙しい毎日。そのモチベーションはどこに?
「これまでの監督や役者さんと、別の作品で再会するのが目標です。そう思えるのもいままで出会った人たちが本当にいい人たちばっかりだから! そう思うと、僕はつくづく人に恵まれて俳優をやれているんだなあ」
撮影を終えて一言
出演・奥平大兼
「下町の路地裏を、カメラ片手に散歩気分での撮影。すごくのんびりした気持ちになりました。服装も街の空気もこのくらいのラフさが僕にとっては居心地がいい。潮風を含んだ初夏の空気に、下町のおばあちゃんちで過ごした子供の頃の夏休みを思い出して…、ふと今年は隅田川の花火が見たくなりました」
おくだいら・だいけん 2003年9月20日生まれ、東京都出身。好物はワイン好きのお母さんが作るアヒージョ。「お酒は飲めないけど白米に合うんです(笑)」
ロングTシャツ¥27,500(ジェームス パース/ジェームス パース青山店 TEL:03・6418・0928) その他はスタイリスト私物
撮影・表 萌々花
「前日まで雨予報だったのが、当日は晴れ間が差す瞬間も。撮影は、奥平さんと同じ目線で撮ることを心がけました。なので、お互いに撮る人/撮られる人という意識はしていなかったと思います。等身大の19歳で気張った感じもなく、ずっと自然体で撮影に応じてくれ、自然にシャッターを切ることができました」
おもて・ももか 1998年生まれ、岐阜県出身。山や自然、旅先など、自分が身を置く場所やそこでの出会いで感じた心の機微を写真で切り取っている。
※『anan』2023年7月19日号より。写真・表 萌々花 スタイリスト・伊藤省吾 ヘア&メイク・速水昭仁 取材、文・大澤千穂
(by anan編集部)