「昨年12月からほぼ毎月のように撮影と出張で海外に行っています。だいたいの撮影(パフォーマンスキャプチャー)をロスでしていますが、ADR(アフレコ)のために俳優さんがいるヨーロッパへ行くことも。同じ現場にいると、進み方がまるで違います。映画と同様、セットを組んで撮影しますが、リモートの場合、俳優さんを一人ずつ呼んでiPadの画面越しに話していましたけど、なかなか指示が伝わらない。それが、今は直接伝えられてクオリティが上がるので、やっぱり現場は一緒に集まってやるほうがいいですね。リモートやメタバースの限界が立証されたというか、人と人を繋ぐのは回線だけではいけないなと実感しました。こうした生活になるのが3年ぶりくらいなので、海外にいる時は毎日、あらゆる映画関係やミュージシャンやクリエイターの人たちと食事をして、ハグをして…という。(ギレルモ・)デル・トロ監督なんか、“もう死ぬ!”と思うくらいハグをしてくれましたから(笑)。最近、ずっと大ファンのアレックス・ガーランドさんに直接お会いすることができ、メールとビデオコールでは何度か話をしていましたが、やはり会って話すと全然、違います。キャスターのようにカメラに向かって話すだけでなく、雑談をしたりある種の隙を見せ合うことでより理解し合えるので、自分にとっての良いコミュニケーションを取り戻せました」
クリエイターたちとどんな話をするのかと尋ねると、「大体、自分たちのことばかりです(笑)。今こういうことをしているから見ろ! という言い合い合戦と、あとは映画や本など“これがこれからくるぞ”という話です」。
また、クリエイターだからこそ感じる孤独が、自分のものだけではないとあらためて知る場にもなっているという。
「(スティーヴン・)スピルバーグ監督の『フェイブルマンズ』では、主人公の少年が映画の魅力にとりつかれますが、家族には理解されません。クリエイターとはそういうものなんです。宇宙飛行士や未解決事件を追いかける刑事とか自分のプライベートな生活がない人も同じで、休みの日に家にいても頭は違う世界にいて、“これは使える”とか思っているんです。いわば、ゲームを創ることが仕事ではなく使命なので。『トップガン マーヴェリック』のトム・クルーズみたいなものですから(笑)。自分だけが変なのかと思いきや、話していると彼らも全員そうなんだ、こういう人たちもいるんだということが、クリエイターのみなさんと会うとわかります」
仕事が使命になった瞬間とは。
「僕がゲーム会社に入ったのは、自分が創ったものが商品として世に出るからです。最初は、自分が創ったものをみんなに見てもらいたいという気持ちと、新しい何かを創りたいというアーティストみたいな感覚の両方があったのですが、『メタルギア ソリッド』が大ヒットして、世界中からいろんな反響をもらい、僕の創ったものがみなさんに影響を与えるように。僕のゲームを見て俳優になった、ミュージシャンになった、監督になったという人がたくさん名乗りを上げてきて、それを考えると、ちょっとしんどいからやめます、というわけにはいかないし、続けないといけないのかなと。ありがたい話ですよね。自分のために物創りをしていたのに、結果、誰かのためになっていて。誰かのために物を創るのもいいなと思いますし、使命がないと創れないと思います。美術館や博物館に行くと何世紀も前の人が創ったものが見られますが、物創りは時空を超えるんです。もしかすると自分の作品も、何十世紀後の人たちが見てくれるかもしれない。そう思うと、しんどいとか苦しい、疲れたという理由ではやめられないですよね」
昨年末にはアメリカで開催された「The Game Awards」に登壇した小島監督。あらためて、海外におけるゲームというカルチャーへの注目度の高さを感じたという。
「海外では映画と同じかそれ以上にゲームの認知度が高く、社会にも根付いています。たとえ、その人がゲームをしていなくても家族や友だち、恋人など周りの誰かがやっていて、僕が20代の頃、“ゲームを作っている”ということが恥ずかしくて言えなかった時には想像がつかないくらいの力を生んでいます。海外では、ゲームを作ることはクリエイティブなものだと捉えられ、映画関係のスタジオがゲームを作るなど、ハリウッドとゲームもすごく近くにあります。ただ、よく誤解されるのですが、僕はゲームの中で映画の手法や小説のストーリーテリングをあえて使ってはいるものの、自分が創ったゲームを自分の手で映画化することには興味がありません。映画を撮るのであれば映画用の企画から作りたいですね」
Spotifyで配信されている監督のポッドキャスト番組『Hideo Kojima presents Brain Structure』には、ノーマン・リーダスやエル・ファニング、押井守監督など国内外の豪華なゲストが登場。英語版も配信され、海外からも大反響が。
「一番好きなのは、押井さんとの対談。なかなか人を褒めない方ですが、珍しい一面を見せてくれた神回でした(笑)。ジョーダン・ピールさんは、あの番組収録で初めて話したんです。zoomを繋いでそのまま『こんにちは』でしたが、絶対に合う方だなと。よく、幼馴染みみたいと言うのですが、初対面でも話が合う、前からの友だちみたいな人っていますよね。(S・S・)ラージャマウリ監督や、(ニコラス・ウィンディング・)レフン監督もそう。レフン監督はゲームをしないので僕のことを知らなかったのですが、最初にロンドンで会った時、ものすごく暗いレストランで(笑)、気づいたら何時間も喋っていました。毎日、変なメールが送られてきますよ。ポッドキャストを聴いてくださる人は海外にもたくさんいて、Twitterのフォロワーも海外用アカウントのほうが多い。信じられないでしょうが、僕、海外だとどこへ行ってもバレるんです。トイレから出ると人が待っているし、空港の入国審査官にサインをくれと言われますから(笑)」
新作『DEATH STRANDING 2』はどんな作品になる?
「配達を通じて繋ぐことの重要性は残しながらも、“繋ぐべきだったのか”という前作とは逆のテーマを掲げています。それは、コロナ禍で配達がライフラインになるなど注目される一方、そこに行きすぎも感じ、やはり人と会って話すのがいいよねという方向に考え方が変わったから。賛否が分かれるかもしれませんが、とんがっているし、今回も最後の作品になっていいという気持ちで創っています」
こじま・ひでお 1963年、東京都生まれ。コジマプロダクション代表。’87年に初監督作『メタルギア』でデビュー。独立後初となるタイトル『DEATH STRANDING』が世界で大きな話題を呼んだ。
※『anan』2023年5月17日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) ヘア&メイク・奈良原友美 取材、文・重信 綾
(by anan編集部)