身体、性、生殖、たまご、海、水…透き通った感性に瞠目し、共鳴する。
「自分の中にはその両方の気持ちがあるんですね。特に〈うみたい〉というより〈ふえたい〉といううみの気持ちに近い気がします。そのふたつがどう違うのかを突き詰めてみたいというのもありました」
うみとみみは副業で、むむというキャラクターぬいぐるみのネット販売をしている。うみのアルバイト先〈孵化コーポ〉は、卵生生物をブリーディングする施設だ。ポケモンのミュウツーの名言〈だれがうめと頼んだ〉…作中に登場するモチーフが世界観を幾重にも塗り重ねる。
「言葉を集めたというか、思い浮かんだ言葉の中に〈うみみたい〉があったんです。この5文字に、生殖や海など自分が大切にしてきたモチーフや感覚が入っていると感じ、その言葉に導かれるように、ストーリーができてきた気がします。ダブルミーニングになるなど、これぞと思う表現や言葉ってそんなに出合えない。だからこそ、出合えたときには湧き出るものがある。見えていなかった世界が広がるんですね」
うみとみみは同じ美大卒。在学中からその才能で特別な存在だったみみのアトリエに、うみが転がり込む形で同居は始まった。そんなふたりの無二の関係性から、読者もまた自身が抱えてきた感情や価値観を見つめることになる。
「互いが親密になって溶け合っていく感じって、自分が消えていく感覚にも近いような気がして。そうなれるほど大切な人と出会えた喜びの中に、やわらかな孤独も光っている。そういう表裏一体な感覚は書きたかったです」
読者から「みみに幸せになってほしい」という感想をもらい、小説を書く面白さを強く感じたという。
「詩では人物はむしろ曖昧にして読み手ごとの多様な解釈や感情をかき立てるのが書く楽しさかなと思っていたのですが、小説だと作中人物が読者の中にリアルに存在して世界を広げていくことができるんだなと」
うみとみみが互いの違いを認めながら決めたこととは。かけがえのない美しさに満ちたラストシーンだ。
『うみみたい』 表題作ほか、何もかもがたまごから生まれたらいいのにと思う女性のひとり語り「スウィミング」など、4つの中短編を収録。河出書房新社 1760円
みずさわ・なお 1995年、静岡県生まれ。武蔵野美術大学卒。2019年に第一詩集『美しいからだよ』が発売になり、第25回中原中也賞を受賞。’22年に刊行した第二詩集『シー』は発売即重版。
※『anan』2023年5月17日号より。写真・土佐麻理子(水沢さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)