神々のほとんどが夫婦! 愛のストーリーが満載。
長い年月をかけ多くの人の手により紡がれてきたインド神話。
「その歴史はインド最古の聖典『リグ・ヴェーダ』により遡ることができますが、発祥はさらに1000年以上昔のインダス文明が栄えていた頃。インド神話は、インダス文明から現代に至る約4500年の間、愛され、受け継がれてきた神々の物語なのです。登場するのは、叙事詩『マハーバーラタ』のクリシュナや『ラーマーヤナ』のラーマをはじめ、シヴァ、ガネーシャなど個性豊かな神々ばかり」(作家、インド神話&インド文化研究家・天竺奇譚さん)
神々が愛に生きる姿もたくさん描かれている。そもそも、インド神話に出てくるヒンドゥー教の神様たちの多くは夫婦なのだという。
「これはヒンドゥー教の成り立ちと関係があります。仏教などの影響を受けて、一度廃れかけたバラモン教の信徒たちは、新しい信徒を取り込むため、土着の女神を信仰する人たちに“その女神様は私たちの教えにある男性神の奥さんです”と話して取り込んでいったのです。こうして、バラモン教は女神崇拝などの土着の信仰と結びつき、ヒンドゥー教に発展しました。男女の神様がセットになる場合、女性の持つパワーが全ての力の源だとする思想もあります。神話にはカーリーをはじめ魅力的で強い女神たちが数多く」
なかには、何人もの妃を迎えている神様もいるが、浮気などにはならないのだろうか。
「インドは広く、言語や信仰、文化もさまざま。そのため、自分が思う物語を描いた神話の二次創作がたくさん作られています。たとえば悲劇的な結末を迎える『ラーマーヤナ』のハッピーエンド版は、演劇が作られるほど人気が出ました。違う時代を生きるいろいろな人たちが、思い思いの物語を描き、個々の物語が独立して存在しているのが、インド神話の面白いところ。そのため、一人の神様が物語ごとに違う女神を妃に迎えたとしても、“浮気”のようなことにはなりません」
神々の想像を超えた愛の関係とストーリーに注目です!
憧れのカップル2組を紹介
インドで“理想の二人”と称され支持を集める大人気カップルをピックアップ。愛の深さがわかるエピソードに注目です。
ラーマ×シーター
お互いを一途に深く想い合う姿が、多くの人の憧れの的に!
インドの二大叙事詩の一つ『ラーマーヤナ』の主人公であるラーマは、遊行中に訪れた国でシーター姫の婿選びの儀式に参加。誰の手にも負えないほど重いシヴァの弓を軽々と引き、見事夫婦に。貞節を守りラーマだけを想うシーターの姿はインド人女性の鑑とされる。一方のラーマもシーターにベタ惚れ! 『ラーマーヤナ』の原典には、彼女が魔王ラーヴァナにさらわれてしまった時、「愛するシーターに二度と会えないのか…」などとメソメソするラーマの姿が描かれている。映画『RRR』に登場するラーマとシータは、この二人をイメージ。
クリシュナ×ラーダー
プレイボーイと人妻…! 人の愛を超えた“神の愛”。
笛の名手であり、あまりのカッコよさに出会う女性全員が恋に落ちるといわれるほど、とにかくモテるプレイボーイのクリシュナ。叙事詩『マハーバーラタ』に登場する英雄でもあるが、そんな彼の若き日の恋人がラーダーであり、なんと彼女は人妻! 人妻との関係は咎められがちだが、クリシュナの愛は、“人の愛を超える神の愛”だと解釈され、受け止められている。映画『バーフバリ』をはじめ、エンタメ作品などで恋する気持ちを表現するツールとして、「あなたはクリシュナ、私はラーダー」という内容の歌詞の曲が出てくることもしばしば。
天竺奇譚さん 作家、インド神話&インド文化研究家。Webサイト「天竺奇譚」を運営、インドの神様の魅力を発信している。著書に『いちばんわかりやすい インド神話』(じっぴコンパクト新書)。
※『anan』2023年2月15日号より。写真・Everett Collection Alamy Dinodia Photo Photononstop/アフロ Julian Kuma Dinodia Phot Anders Blomqvis Philippe Lissa Fanatic Studi/Getty Images 取材、文・重信 綾
(by anan編集部)