ボーイ・ミーツ・バードに、幸あれ。浸っていたくなる異文化交流コミック。
「もともと、ヒト型の細長い謎の生き物と出会う話を考えていました。冬にバイトに行く途中の川に鴨が集まるのを見て、“渡り鳥”という設定が浮かんだので追加。結果、ああいう見た目の生き物になりました。日本食好きやロシア語堪能などのクジマの特性は、ほとんど思いつきですね(笑)。担当編集さんに『家族ものにしたらどうか』と提案されて、謎の生き物によって変化していく家族を描いてみようと、いまの枠組みが決まった感じです」
1巻では、マイペースで優しいけれど意外なポイントでキレたりするクジマのキャラや、居候先である鴻田家のおおらかな雰囲気などが紹介されていた。2巻では、日本の行事を楽しむクジマや新たちの交流が中心に。浪人生である長男・英(すぐる)は終始ピリピリしているのだが、なぜか憎めない。笑えて、ハラハラして、ほっこりするエピソードが満載。
「クリスマスや正月、こたつなど、日本の文化や初めての経験を、クジマならどう過ごすのかなと、大喜利のような感覚で考えています」
本書では、新の両親のみならず、田舎の祖父母までもが正体不明のクジマをすんなり受け入れる。自分と違うものや理解できないものに対して狭量で、何でも排除したがる時代だからこそ、偏見を持たずに共生する彼らに、拍手を送りたくなる。
「クジマはたまたま受け入れてくれる人たちに出会っただけかもしれませんが、幸運でしたね」
読めばわかるが、本書の最大の魅力はクジマの愛らしさ。クジマがどんなときにどんな表情をするのかを描くのは、まったくの架空の生物なだけに、難しそうだけれど。
「クジマの表情の変化は目だけでしか表せないため、できない表情がたくさんあって困ることもありますが、それが『何を考えてるかわからない生き物らしさ』を出す上では、利点でもあるのではないかと思っています。カラーはデジタルで、他はすべてアナログで描いていて、絵としてこだわっているのは背景ですね。陽の光や空気感が伝わればいいなと思いながら描いています」
ちなみに、クジマが鴻田家に住むのは、〈ロシアに帰る春まで〉。
「春になったらちゃんと帰ります」
と紺野さん。それまでは、クジマたちの楽しげな日常を見守りたい。
紺野アキラ『クジマ歌えば家ほろろ』2 1巻ではクジマを仇敵扱いしていた英の態度も軟化。クジマと周囲の人々が、ますます賑やかに、打ち解け合っていくさまがいい。3巻は春に刊行予定。小学館 715円 ©紺野アキラ/小学館 ゲッサン
こんの・あきら マンガ家。1997年生まれ。17歳のとき、ゲッサン新人賞で最終選考に残る。20歳で新人コミック大賞入選作「知らない海の底」でデビュー。
※『anan』2023年1月11日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)