『僕の姉ちゃん』シリーズもおかげさまで5冊目、最新刊に込めた思いを伺いました。
――恋に一生懸命で、おやつに目がなく、ダイエットに励む(意思を持っている?)、ちはるは今回も健在ですが、今作でまず感じたのは哲学者のようなちはるの深い発言の数々です。「誕生日は奇跡だ」「人生に余生なし」「才能がない人なんているの?」というような、とくに、生きているということを強く肯定するような言葉が多かったように思います。
最新刊に収録されているのはコロナ禍に描いた原稿も多く、未来が見通せない中でちはるに力強いセリフを言わせたかったのかもしれません。同時に、ちはるには「緩める」役も背負ってもらっていたのかも。ちはるは「くよくよしても仕方がない」という言葉には意味がないと言っています。人はくよくよしたいときもあるし、くよくよしかできないときもあります。わたしもしょっちゅうくよくよします。
――また「自己評価を加算方式にする」とか、「ビールを飲むこと、職場の椅子が新しくなったこと、など一見当たり前なことを夢が叶ったと感じる」など、少し見方を変えることで日常を楽しくする、というアイデア・ヒントも多かったと思います。とかく腐りがちなこういう日々には、とても参考になりました。
こういうときには小さな達成感も大事だなぁと。大きい達成って平時でもなかなか難しいですし。加算式で自己評価を「100点」と言ってのけたちはるに、描いていて思わず笑ってしまいました。仕事30、恋愛30、旅行10、チョコレート10……加算式っていいですよね。つい100から引き算して今の自分の点数を付けがちですけれど、わたしも見習って自己評価を加算式で100にしてみようかな(笑)。チョコレートは20くらいになると思います。
――ちはるが、これまでよりも、より思索的になっていることは連載の中で意識されていましたか? また、それ以外にも今作の傾向のようなものは何か感じられましたか?
「僕の姉ちゃん」はananでの連載ということをいつもとても大事に考えて描いているんです。わたし自身、会社員として働いていた20代の頃、ananを買って帰る夜って「自分を変えたい」とか「新しいヒントが欲しい」とか「イヤなこと忘れて楽しい気持ちになりたい」など、さまざまな気持ちがありました。疲れて帰ってきた読者のみなさんに読んでよかったと思ってもらえる漫画になっているといいなと描いています。あらかじめ特集号のテーマを編集さんに教えていただいているので、反映させた漫画を描くことが多いです。なので、温活、腸活、モテコスメ、愛とSEXなど「僕の姉ちゃん」の作品の流れはananに影響されている部分が大きいと思います。
――思索的な発言が増えた一方で、ちはるの恋に対するスタンスは戦略的かつ恋に恋するロマンティストな面もあり、基本積極的である姿勢は変わっていません。近年、恋愛の低体温化も言われることが多い中ではありますが、ちはるの恋愛体質は今後も変わらなそうですね?
「ちはる」は作者であるわたしの憧れでもあるんです。恋をしても「守って負けるより 攻めて負けるほうがいい」なんて堂々としている。以前、ちはるは「なんのためでもないのが恋だ」と弟に語っています。歳を重ねて、本当にそうだなぁと振り返ることがあるんです。ただ好き、ただ会いたい、みたいな恋って素敵だったなぁって。後輩の男の子が車道側を歩いてくれただけで恋が芽生えるなど、ちはるの「恋のハードル低め」なのも健在です。ドラマでは黒木華さんが大人の恋も演じられていてキュンキュンしますよ。
――恋にココロを震わせる女子であり、道を諭す導師であり、人生を思う哲学者であり…「一人ダイバーシティ」のようなちはる。一見バラバラのように見えて、ちゃんと「ちはる」という人格が確立している感じが気持ちいいです。いろんなシチュエーションのちはるを描く際に軸として大切にされていることはなんですか?
ちはるは行き当たりばったりに見えることもあります。恋もダイエットも英会話も似たような失敗を繰り返して。ただ、自分がやらないことや、言わないことを持っている女性なんです。「どうせわたしなんか」や「男のくせに」「女のくせに」という思考や発言はありません。自分の中の正しさの基準がしっかりしている。そういう強さをわたしはいつも愛おしいと感じながら描いています。弟に対して「順平のくせに」というのはご愛嬌です(笑)。
歳をとってからの時間もすべて自分の大切な時間。余った時間ではない。若くなくなったことを悲観しないで生きたいもの。
仕事? 恋人? 友達? それとも趣味? etc, etc……。思わず自分の中の配点を考えて楽しくなる回。100点超えちゃうかも!?
『進め! 僕の姉ちゃん』 1320円(マガジンハウス) 10/7(木)発売 あるときは恋に揺れる乙女、あるときは道を説く導師、あるときは人生を思う哲学者……。でも、人としての軸はぶれません! 笑って、共感して元気になれる113エピソード!
ますだ・みり イラストレーター。漫画、エッセイ、小説ほか幅広く活躍。Amazon Prime Videoで絶賛配信中のドラマ『僕の姉ちゃん』に加え10月8日(金)からドラマ『スナックキズツキ』(テレビ東京系)も放送スタート。
※『anan』2021年10月6日号より。
(by anan編集部)