学校の人気者が突然カミングアウト。周囲、そして本人の心の揺れの行方。
「最初の構想として、何か大きな出来事があり、そこから巻き起こる小さな世界の話、というのがありました。カミングアウトって、告白したら終わりではない。そこから後に引く部分を書いてみたかった」
視点人物を担うのは彼の告白を迷惑に思う同じ学校の隠れゲイの生徒、学校の教師、塚森のファンの後輩女子、ゲイに嫌悪感を抱くバスケ部の後輩、そして塚森本人だ。
「隠れゲイの子は、違う立場の当事者として出しました。大人の視点も入れたくて教師を書きましたが、この人は相手の属性にとらわれているタイプ。ファンの後輩は、自分に自信がなくて塚森の存在に依存してきた子。バスケ部の後輩は、今はカミングアウトを受け入れる人が多いけれど、それができず逆にマイノリティとなって疎外感を抱く人物です」
互いと接点を持ち、相互作用しながら自分と向き合っていく彼ら。最後に登場する塚森本人に関しては、
「人気キャラだけど、実は無理している。その無理を書きたかった。SNS時代の今はみんながいろんな顔を持っているし、人は場面場面によって違う顔を持っていて当たり前。ただ、ゲイは人より仮面の数が多いというか、仮面に厚みがあって、自分を偽っている感覚がある。それと、塚森は人を好きになることに罪悪感がある。人に弱みを見せたくない部分もありますが、彼にとって人を好きになることは弱みなんです」
登場人物みんなにとって大切なのは、人に認められることより、自分で自分を認めること。「自分を認める」と「自分が好き」は少し違って、「自分の手札に納得できなくてもそれで戦おうとするのが“認める”で、最初から強い手札を持っていると思えるのが“好き”という気がします。塚森の場合、強い手札を持っていると見せかけてきたんです」
そんな塚森はじめ、脇役も含め、全員の変化に胸が熱くなるはず。
『#塚森裕太がログアウトしたら』 成績優秀、容姿端麗、性格の良さも評判のバスケ部のエースがSNSで同性愛者だと告白。周囲のさまざまな反応、そして塚森の本心は…。幻冬舎 1400円
あさはら・なおと 小説投稿サイト「カクヨム」に『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』を投稿、'18年に書籍化。『腐女子、うっかりゲイに告る。』としてドラマ化された。他の著作に『御徒町カグヤナイツ』。
※『anan』2020年12月23日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)