シャッターを切る勇気がでないこと、今でも、けっこうあるんです。
長島有里枝さんが「写真家」になって四半世紀が経とうとしている。武蔵野美術大学在学中に家族と共にヌード姿で撮影したセルフ・ポートレートが話題を呼び、‘90年代は“ガーリーフォト”の火付け役に。‘01年には木村伊兵衛写真賞を女性写真家3人で同時受賞。実力と世の中の写真ブームとが相まって20代から時代を駆け抜けてきた。そしてこの秋、東京都写真美術館で彼女の回顧展ともいえる大規模な個展が開催される。
「最初は40代で回顧展なんていいのかなと思いましたが、若いうちから働いてきたし、やってみようと。展示作品を260点近くに絞るのがとにかく大変で、25年分ある写真の整理に半年は費やしました。退色の進んだ昔のネガを修復するだけでもひと仕事。昔の彼氏でもなんでもみんな作品になっているから、いろいろ思い出しました(笑)。新作もあります。日記をつけるように、日々出会った人を撮影した200点ほどの写真をテーブルに並べた作品です。改札で撮ったものや振り向きざまの写真が多いのは、会えたことが嬉しすぎてカメラを向け忘れてしまったから。勇気がでずにシャッターを切れない時もけっこうあるんです」
20代の終わりに出産。「母」として息子と過ごす時間を優先しながら作家活動を続けてきた。そんな中、自らの子供時代を綴ったエッセイ『背中の記憶』を上梓。写真家らしい視覚的な言葉で、長島さんの見た個人的な景色がまるで読み手の記憶であるかのように、イメージをくっきり思い起こさせる印象的な文章だった。今回の個展のタイトルもまた独特なので、ご本人に解説をお願いしてみると……。
「オリジナルは英語でした。まず、写真を撮るのに必要なことをレシピみたいに書き出してみようと思ったんです。好奇心、勇気などに続いて、“ひとつまみの皮肉と、愛を少々。”という言葉があった。日本語に翻訳して、さらに短くしたら、なぜかそこだけが残っちゃったんです。わかりにくかったらどうしよう(笑)」
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