監視の目を広げるというのは大きな意味がある…堀潤の「パレスチナ、イスラエル取材報告」

2024.8.15
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「パレスチナ、イスラエル取材報告」です。

大きな主語でなく各々で起きていることに注視しよう。

社会のじかん

パレスチナ自治区ガザの痛ましいニュースが連日報道されています。ただ、同様のことはガザ以外でも起きています。先日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のジェニンに取材に行ってきました。ここは2000年代初めにジェニンの虐殺が行われ、昨年10月のハマスによるイスラエル攻撃ののちは、500名以上のパレスチナ市民が亡くなり、7000名以上が拘束されています。ジェニンの難民キャンプ周辺は砂埃が舞い、病院に続く道路はアスファルトを剥がされていました。救急車両の行く手も阻まれますし、雨になるとぬかるんで車輪がはまってしまいます。

街中にはレストランも市場もあり、普通に機能しているように見えますが、たびたびドローン攻撃を受け、不自然に破壊された建物がありました。ビルの上層階からスナイパーで無差別に市民が狙われ殺されています。街を案内してくれた元自治体職員のヨセフさんは、ジェニンの実情を伝える報道機関がないので、市民ジャーナリストを育成したいと話していました。

その後、イスラエルの西エルサレムにも行きました。そこではイスラエルの市民が「戦争をやめるべきだ」「ハマスによって誘拐された人質を解放してほしい」と、数千人規模のデモを行っていました。多くの若者が参加しており、「選挙をしろ、投票させろ」と書かれたステッカーを壁や電信柱に貼っていました。政府が間違いを犯しているのであれば、自分たちの手で政府を変えなければいけないと訴えていたのです。この動きはイスラエルの中ではまだ少数派ですが、首都のテルアビブでも、毎週末ネタニヤフ政権反対デモが行われています。

イスラエル=ネタニヤフ政権ではありませんし、パレスチナ=ガザ地区だけでもありません。こうした実情を世界に広く伝えることは、攻撃の手を抑える圧力になります。誰も見ていなければ、もっとひどい手法で次々に人々が殺されていたかもしれません。監視の目を広げるというのは大きな意味があります。世界中あちこちで無秩序なことが起きています。日本は平和に見えますが、息苦しさが広がっています。目を背けてはいけないと思います。

堀潤 社会のじかん

ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~8:30)が放送中。

※『anan』2024年8月14日‐21日合併号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)