男とか女とか関係なく強く求め合う姿は美しい。
パンセクシュアル(全性愛者)を公言し、SNSで情報を発信しているみたらし加奈さん。彼女が“焦がれる気持ち”を刺激されるのは、同性同士の恋愛を“悲劇”として扱わない映画だという。
「当事者同士でも、片方が当事者のパターンでも、LGBTQ+をテーマに扱っている作品は悲しいエンディングを迎えることが多いんです。『絶対に結ばれない禁断の恋』や『秘密の関係』といった謳い文句でパッケージングされ、最終的に別れさせられてしまう。社会に阻まれている部分はあるので、リアルな箇所ではありつつ、それを観てもポジティブな気持ちにはなれません。日本においては同性カップルの法律婚が認められていないという事実があり、当事者が閉塞感を抱きがちなのは事実です。でも、普段はパートナーと何気ない普通の会話を楽しんでいるし、もちろん自分が悲劇の主人公だという自覚もありません。異性同士のカップルの恋愛と何も変わらないんですよ」
映像作品で多様な愛のカタチに触れることが、愛の本質を考えるきっかけになり、価値観をアップデートできることもある。
「今回セレクトした映画は、シンプルに私が『いいな』と思えた作品です。とくにオススメなのは『フィリップ、きみを愛してる!』。もともと異性愛者だった主人公のスティーブン(ジム・キャリー)が、偶然出会った青年フィリップ(ユアン・マクレガー)に惹かれ、ひたむきに気持ちを貫いていく純愛ストーリー。ですが、ジム・キャリーが主演ということもあり、ところどころにコミカルな描写があって、微笑ましい気持ちで展開を見守れるんですよ。そして、性別関係なく、人間同士が情熱的に求め合う姿は美しいんですよね。それを再確認させてくれるような映画が私は好きだなと思います」
『アデル、ブルーは熱い色』も、異性愛者だった女性が同性の相手に魅了されていく作品だ。
「異性しか愛せないと思っていた女性が、青い髪のエマに出会い、本能的に惹かれてしまう。その瞬間の、トキメキと戸惑いが入り交じった感情に私も共感しましたし、恋に落ちたての愛しい瞬間が美しく描かれているんですよ。同じセクシュアリティを持つ人たちの間でも人気の作品ですし、エマが魅力的なので、異性愛者の女性が観てもドキドキしてしまうかも。案外、性的指向が『異性』に向いている人たちの中にも、世間からの刷り込みによってそう思わされているケースもあります。もっとLGBTQ+の恋愛をフラットに描く作品が増えれば、私のように本来の自分の感覚に気づき、人生の選択肢を広げていける人もいるのかなと思います」
「愛してる」と伝えたくて詐欺と脱獄を続けた実話。
『フィリップ、きみを愛してる!』 警官のスティーブンは詐欺師となり、あえなく刑務所行きに。そこでフィリップに一目惚れし、自分は弁護士だと嘘をつく。「運命の相手に『愛してる』と伝えるために詐欺と脱獄を繰り返すのですが、実話ベースの物語なので感動もひとしお」。DVD¥1,320(ハピネット・メディアマーケティング)© 2009EUROPACORP
女性同士の美しい愛が世界中の人々を虜に。
『アデル、ブルーは熱い色』 青い髪の美大生エマと出会い、運命的な恋に落ちた女性アデルの人生を、大胆な性愛描写とともに描く。「『自分は女の子のことも好きになれる』と知ってすぐに観た作品。生々しくもリアルな恋愛に夢中に」。Blu-ray¥3,278(発売元:コムストック・グループ 販売元:ツイン)© 2013-WILD BUNCH-QUAT'S SOUS FILMS-FRANCE 2 CINEMA-SCOPE PICTURES-RTBF(Television belge)-VERTIGO FILMS
男性のためではない過激なラブシーンの連続。
『お嬢さん』 莫大な財産を持つ令嬢・秀子と、詐欺グループに育てられたメイドのスッキが深い関係を結ぶことになる。「女性同士のラブシーンがリアルに描かれていて、当事者の間でも評価が高い作品です」。DVD¥4,180(TCエンタテインメント)© 2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED
3人が全員と愛し合う新たな三角関係のカタチ。
『それでも恋するバルセロナ』 親友同士の女性2人が、画家の男性に出会い、それぞれ彼に惹かれていく。「レズビアンの中に“男性”が割り込む話ではなく、3人が対等な状態のまま生活して独自のパートナーシップを築いていく姿にすごく共感しました」好評配信中 ©2008 Gravier Productions, Inc. and Media Produccion, S.L
性別を変える恋人を彼女として支えられるか?
『わたしはロランス』 本来の性別に気づいた恋人との10年にわたる愛を描いた物語。「彼氏の告白を聞き、彼女は非難しながらも最大の理解者になることを決意します。感情の揺れ動きの描き方がとても丁寧です」。Blu-ray¥5,280(TCエンタテインメント)©2012 Production Laurence INC / MK2 SA / ARTE France CINEMA
みたらし加奈さん 1993年生まれ。東京都出身。臨床心理士、公認心理師。精神疾患についての認知を広める活動を行う。同性パートナーと共にYouTubeチャンネル「わがしChannel」も配信。新刊『テイラー 声をさがす物語』が発売中。
※『anan』2022年3月9日号より。イラスト・green K 取材、文・浅原 聡
(by anan編集部)