クリスマス・イブの東京の街で起こった連続爆破事件。容疑者の朝比奈を佐藤さん、犯人を追う刑事・世田を西島さんが、重厚感たっぷりに演じます。
――人物の過去や事件に至る思いなどがギリギリまでそぎ落とされていましたが、役の立ち位置をどのように考え演じられましたか?
佐藤:人物の背景を削るというのは、「100分以内に収める」というチョイスをするための波多野(貴文)監督の決断。その中で、朝比奈のポジショニングは、お客さんの思考を引っ掻き回すことでした。映画の中で次々に起こる事象という点と点を結び、線にしていくお客さんに、最後は「そういうことだったのか」と感じてもらえるように演じましたね。…サスペンスだから、どこまで話していいのかわからなくて、説明が難しいな(笑)。
西島:本当ですよね(笑)。僕の役は、事件を追っていく観客のみなさんと同じ目線ということを意識して演じました。役の過去はたしかに一切描かれていないのですが、準備稿には設定がありました。そのおかげで、自分の中にしっかりイメージができた。そこを大事に、撮影には臨みました。
――渋谷での爆破シーンには息を呑みました。地方で巨大なセットを組んでの撮影に参加した西島さんは、そのセットを目の当たりにしてどう感じましたか。
西島:建物の部分はCGなので、セットではグリーンを背景に撮影しましたが、「あそこに甘栗屋さんがあって、その隣には…」と、渋谷のスクランブル交差点の風景を思い浮かべられるんですね。そういう場所って、全国でもなかなかないんだなと思いました。
佐藤:誰もが見たことがあり、知っている場所だからこそ、CGスタッフは、より一層頑張ったんじゃないかな。ものすごく丁寧に作り込まれている。
西島:あのシーンではエキストラの方が、1日1000人くらいずつ参加してくださいました。ハイスピードカメラでの撮影は、わずかなズレがものすごく目立ってしまいます。なので、全員がイメージを共有し、タイミングを合わせないといけなくて。大変なシーンに、1000人のひとりとして参加できたことは、刺激的な体験になりました。
佐藤:エキストラの方々が、どういうシーンをやっているのか、ちゃんと想定してやってくださっていたのが伝わってきた。昔は、画面をよく見ると、シリアスなシーンなのに、ヘラヘラ笑ってるヤツがいたんだよ(笑)。
――爆破事件という予測不能な出来事によって人々の日常が一変する物語は、世界を襲ったコロナの体験と重ねることもできそうです。
西島:撮影はコロナの前に行われましたが、明日も今日と同じ日が続くとは限らないことを描いたこの映画を、みなさんがどう感じるのか、すごく興味があります。
佐藤:“絵空事”という言葉がありますけど、何に対してもそう断言できる時代ではなくなりましたよね。何が起こっても不思議ではない現実が、映画作りを難しくさせるのかもしれない。「それ、現実にあるよね」と思われてしまいかねませんから。この映画も、当初より抱えているメッセージ性が強くなっているかもしれません。でも、それもこの映画が持っていたある種の宿命とも捉えられる。そうしたことを含めて、いろいろ感じてほしいなあと思いますね。
――石田ゆり子さんが、物語の鍵を握るアイコを演じています。
佐藤:ゆりちゃんは奇跡の51歳だよね。いつ見ても、本当に変わらない! アイコが抱えていることは、映画全体に深く関わっています。物語はスピーディに進んでいくので、誰と誰がどんな関係性で繋がっているのか、一瞬も油断することなく、注意深く観てほしいですね。
西島:ひとたび『サイレント・トーキョー』というジェットコースターに乗ったら、99分ノンストップで突っ走ってしまいますからね。石田さんに限らず、(中村)倫也くんも、僕の相棒役の勝地(涼)くんも、広瀬(アリス)さんも、みなさんの一挙手一投足が素敵で、キラキラしていました。
――お二人の共演シーンの撮影はいかがでしたか?
佐藤:映像的なスペクタクルは、渋谷のシーンがメインではあるのですが、その後に我々を含む登場人物が一堂に会すシーンに、映画のすべてが集約されています。そこで何かを匂わせるけど、言い切ってしまってはいけない。そうした微妙な空気を表現しなければならないことは、キャストもスタッフも全員わかっていたので、おのずと緊張感が漂いましたね。日暮れから撮影が始まったんですけど、大事なシーンなので「今日は徹夜かもな」と覚悟していました。
西島:僕も、朝までかかるなって思ってましたが、実際は、夜12時を越えなかったですよね。
佐藤:それぞれの登場人物のバラバラな思いが、映画としてひとつにまとまったから、スムーズに撮影が進んだんだと思うよ。
西島:この作品を受けさせていただいたのは、浩市さんが出ていらっしゃるというのが大きな理由のひとつです。浩市さんの現場への挑み方や本の読み方を直に見ることができて、すごく勉強になりました。ただ、今回は絡むシーンが少なくて…。また共演させていただかないと、正直、僕は納得がいかないです(笑)。
佐藤:前回共演した『空母いぶき』でも絡みがほとんどなかったし、今回も、お互い微妙な距離を保たなきゃいけない役だったからなあ。次は、台詞もメンタルも交差する役、やりたいよな!
『サイレント・トーキョー』 クリスマス・イブの恵比寿で爆破事件が起こる。次のターゲットは渋谷のハチ公前広場。それは日本中を巻き込む、運命の一日の始まりだった――。監督は、『SP』シリーズの波多野貴文。12/4より全国公開。©2020 Silent Tokyo Film Partners
さとう・こういち 1960年12月10日生まれ、東京都出身。’80年にデビューし、今年、俳優生活40周年を迎えた。公開待機作に映画『騙し絵の牙』『太陽は動かない』。
にしじま・ひでとし 1971年3月29日生まれ、東京都出身。’94年『居酒屋ゆうれい』で映画初出演。公開待機作に、劇場版『奥様は、取り扱い注意』などがある。
※『anan』2020年12月9日号より。写真・佐藤航嗣(UM) スタイリスト・藤井享子(佐藤さん) カワサキタカフミ(西島さん) ヘア&メイク・及川久美(佐藤さん) 亀田 雅(西島さん) 取材、文・小泉咲子
(by anan編集部)