読むと結婚が怖くなる!? 不倫夫婦を描く、金原ひとみの新作小説

2019.6.26
「最近、夫婦がもめたり破綻したりする話を頻繁に聞くようになって。私自身も結婚生活が長くなり、お互い分かり合える部分と分かり合えない部分が明確になって、分かり合えないことへの悲しみが蓄積される感覚がある。それを描いてみたいな、というのが始まりでした」 独身女性の間で“読むと結婚が怖くなる”とまで言われる金原ひとみさんの新作『アタラクシア』。既婚ながら他の男性と恋愛中の由依を中心に、結婚生活にもがく複数の男女の視点が描かれる。次第に由依の空虚さが見えてきて強烈な印象を残す。
kanehara hitomi

「感情が薄くしれっと生きている感じですよね。私自身がフランスに住んでいた頃、最初のうちは言葉も通じなくてすごくきつかったんですが、ある時、感情のスイッチが切れて、何も感じないダウナーな状態で生活していました。それは生きやすくはあるけれど満たされない空白感があって。その経験が発端で、由依という人物を作りました」

由依の他、体だけの関係の愛人がいる真奈美、浮気性の夫を持つ英美、由依の夫や愛人ら、個々の生きづらさが生々しく吐露されていく。

「不倫というと快楽を求めるイメージがありましたが、最近はそこにアタラクシア(心の平静)を求めている人も多いと感じていて。家庭や会社が強度あるものではなくなり、立場や役割で簡単に満たされなくなっているのかなと思います」

やがて、空虚に生きる由依や男たちも憎しみの塊となった女も、少しずつバランスを崩していく。夫婦でも恋人同士でも、完璧に分かり合うのは不可能なのに、人はなぜ人と一緒にいたがるのだろう――。

「逆に互いに分かりすぎて溶け合うような関係は、共倒れになりそうで危険だと思う。私も夫から分かり合えない部分はノータッチという関わり合い方をされていることで自分が保たれていたりします」

では、アタラクシアを得るために自らができることは何だろう?

「人間関係が多様化していく過渡期の今、新しい自分を構成、編集していかないといけないのかなと思う。その時“妻はこうあるべき”といった定型に縛られると苦しくなる。思い込みは捨てて、自分の倫理観と折り合いをつけながら、生き方を模索していくしかないかなと感じます」

kanehara hitomi

かねはら・ひとみ ’83年生まれ。’03年に『蛇にピアス』ですばる文学賞、翌年、同作で芥川賞、’10年『TRIP TRAP』で織田作之助賞、’12年『マザーズ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。

『アタラクシア』 夫がいながら他の男と恋愛中の由依。しかし心は空虚で…。「男はじたばた浮気するけど、女は息するように浮気するだろ」など名言が続々。集英社 1600円

※『anan』2019年7月3日号より。写真・土佐麻理子(金原さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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