ん?というタイトルで読みたくなる 日常と非日常の境界を探る物語

2018.12.11
「ん?」と思わず首をひねってしまうこのタイトル、『ベランダは難攻不落のラ・フランス』。掲載されている短編の作品名を部分的に組み合わせているのだが、この妙に収まりのいい不思議な感覚が、衿沢世衣子さんの描く物語の魅力ともいえる。
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「読む人もなんとなく心構えができるので、まともなタイトルにしなくてよかったと思います(笑)。マンガだからなんでも描けるはずなのに、縮こまっちゃうときがあるんですけど、そういうときは絵本などを思い出すんです。小さい子どもでもわかるように、日常に沿っているのに、その延長線上でとんでもないことが起こったりして、でも意外と腑に落ちて楽しい、みたいな」

廃墟で出会った少年と少女の密やかな実験を描いた「リトロリフレクター」。母親が留守の晩、男の子を自宅に連れ込む姉と共謀する妹を描いた「ラ・フランス」。ある日、ひとり暮らしの女性の家に無愛想な少女がベランダからやってきて、いつの間にか居座っている「ベランダ」など、子どもたちが生き生きと動いている世界では、あり得ないようなことがごく自然に起こってしまう。

「性的なものや、死が関係するもの、アクションなどがエンタメとして盛り上がる要素だとしたら、それらが薄くなるといわゆる日常系に括られるのだと思うんです。だけどこの3つはどれも実はすごく身近にあって、その境界線がもやもやしているところをマンガで探ろうとしているのかもしれません」

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“流浪のマンガ家”。衿沢さんは自身のことを、こんなふうに表現する。この短編集にもマンガ誌だけでなく、文芸誌やファッション誌、はたまたZINEなど幅広い媒体で発表された作品が収録されているのだが、いろんなスタイルやテーマで描くことで、自らも新たな出会いや発見を楽しんでいるようだ。

「お題を与えてもらうと思いもよらない話ができることが多くて、それで担当さんがびっくりしてくれるとすごく嬉しいですね。改めて読み返すと、何を考えてこうなったのか、自分でも覚えていないようなものも あったりして(笑)。いろんな媒体から影響を受けているので、試してみたいことが常にあるんです」

日常と非日常を行ったり来たりする危うさとワクワク感と切なさを、ぜひとも味わってみてほしい。

『ベランダは難攻不落のラ・フランス』子どもや音楽などをモチーフに、2008年から2018年にかけて発表された短編を収録。セルフライナーノーツも付き、衿沢ワールドを堪能できる。イースト・プレス 894円 Ⓒ衿沢世衣子/イースト・プレス

えりさわ・せいこ マンガ家。2000年「カナの夏」でデビュー。著書に『おかえりピアニカ』『うちのクラスの女子がヤバい』など。本作と同時期に、よみきり集『制服ぬすまれた』を刊行。

※『anan』2018年12月12日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)



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