
歌手デビュー55周年を迎えた研ナオコさんは常にユニークでスタイリッシュ。その秘密は、好きなことが明確で迷わない、清々しいほどの潔さにありました。
物憂げな雰囲気を纏った歌唱で多くの人の心に寄り添い、近年はYouTubeでの飾らない姿が大きな話題を呼ぶなど、フィールドやプラットフォームをまたいで人々を魅了し続ける研ナオコさん。歌手デビュー55周年を迎えた今年は、映画『うぉっしゅ』で9年ぶりとなる主演を務めることに。その勢いは、止まらない。

――映画『うぉっしゅ』では、ソープ嬢である加那が介護をすることになる、祖母の紀江を演じています。オファーを受けたのはどうしてだったのでしょう。
監督がすごく一生懸命な若者で、応援したいと思ったんです。私でお役に立つのなら、と。
――今作は、“孤独”がテーマの一つとなっていますが、研さんが思う孤独とはどんなものですか?
友だちもいない、家族もいない、話す相手がいない、本当の一人ぼっち。私自身は一回も孤独だと思ったことはないです。仕事をする上でも必ず誰かと一緒だし、家にいる時は家族がいますし。もし、周りにそういう人がいるのに満たされないとか寂しいと感じるのだとしたら、自分がやりたいことをやっていないからじゃないかな。
――子どもの頃から歌手になることを自身で決めたり、やりたいことが明確だったそうですが、他人に影響されることはないですか?
そういうふうにしていたら今の私はないですね。みなさん、他の人がどうしているかとか、気にしすぎだなと感じます。個性がなくなっちゃいますよ。トレンドも、いつかは終わるじゃないですか。だから、そこに一緒になっていたら、ちょっと危険。特に、私たちみたいな仕事をしている場合はね。
――とても潔く感じます。後悔することはありますか?
私ね、振り返らないんです。嫌なことを思い出したら、嫌な気持ちが残るだけでしょ。前に進まなきゃいけないのに、そういう余計なことを思いたくないの(笑)。自分のやりたいことをやって溌剌としていたほうがいいですよ。
――今作で加那は、毎回、自分のことを忘れてしまう紀江だからこそ、親に隠している自分の仕事のことを打ち明けられます。研さんが、自分のことを話してもいいと思うのはどんな人ですか?
(『うぉっしゅ』の)岡﨑(育之介)監督みたいな人。素直に話を聞いてくれて、「これは人に言っちゃいけない、これは言ってもいい」というものを、ちゃんと判断してくれる人です。やっぱり人間性でしょうね。不器用な人、うまいこと泳いでいない人は信用できる。逆に、世渡り上手な人って、信用できなくて。結構いますよね、名前は言えませんけど(笑)。
――研さんは不器用ですか?
そうです。誰とでも合わせるってことができないので。すぐに「嫌だ」って言っちゃうし。
――今回の撮影もポージングについておっしゃっていましたね(笑)。
そうそう(笑)。でも、なんだかんだ言いながらも、やっていたでしょ? 本気で嫌だったら言うことを聞かないですもん。
――ありがとうございます(笑)。そして、今年、歌手デビュー55周年を迎えられました。記念アルバム『今日からあなたと... Starting today, with you』では、「愚図」「あばよ」など、ご自身の歌をセルフカバーされていますが、リリース当時と今で曲の解釈や歌い方などに変化はありましたか?
歳を重ねるごとにどんどん変わっていきましたね。昔は純粋に、ふわっと受け入れて、そのままを表現していましたけど、当時の曲を聴くと「若いな」「勢いでいってんな」と思います。当時、「愚図」は、宇崎(竜童)さんが歌ってくれたデモテープを聴いて、私にはすごすぎて歌えないと思いました。でも、頑張るしかないので世界観を壊さないようにしようと。もう、ライバルとかではなく自分との戦いです。
――納得できたと感じたことは?
一回もね、思ったことがないんですよ。レコーディングでもライブでも毎回、あそこの表現のニュアンスが違うなって何かがあるんです。今でもそう。それは「愚図」に限らず、すべての曲において一回も満足したことはないです。でも、もっと良くなりたいという思いが原動力にもなっています。
――近年はYouTubeのメイク動画も話題となりました。メイクの変遷はありますか?
時期というより、その日によって全然違うんです。同じにしようとしても毎日違う。「今日は、このアイシャドウに、この色を入れてみようかな」とかね。より良くしよう、とかではなく、どんな顔になるんだろう、面白そうっていう気持ちでやっています。大して変わらなかったなとかもよくあります。
――コスメやメイク道具はどこで買うのでしょう。
ドンキですね。よく買うのは、つけまつげ。舞台用、テレビ用、今日みたいな取材用と、全部変えていて。それをYouTubeのメイク動画で上げたら、販売している会社が使いきれないくらい、山のように送ってくださって。
――そんなに! 目が2つじゃ足りないですね。
目が足りないって…、その表現、初めて聞きました(笑)。じゃあ、この辺、ほっぺたとかにもつけとく? って、気持ち悪いわ(笑)。
――すみません(笑)。過去の歌番組の衣装や普段のスタイルも素敵ですが、ファッションに関して大事にしていることはありますか?
柄がブワーッてあるものだとか、フリフリがついたものは絶対に似合わないから店員さんに薦められても買わないです。誰もいないところで、どんなもんだろうと思って合わせてみるけど、うわーって(笑)。シンプルなものが好きです。
――今日のブラックで統一されたお洋服も素敵です。仕事のスタイリングもすべてご自身ですよね。
そうそう。あと、歌う時は昔からドレス。今の人たちはあまり着ないし、それが流行りなんだろうけど、私はちょっと嫌だな。
――『NHK紅白歌合戦』のような歌番組でも、以前はみなさんのドレスを見る楽しみがありました。
みんな、1年間働いてきたお金を全部そこにかけていましたもん。私の場合、ドレスは自分でデザインします。生地を選び、「ビジューを埋め込んでください」「こういう形にしてください」と先生に伝えて作ってもらう。スパンコールをバーッとたくさんつけてみて、ちょっと光りすぎだから薄い生地をのせてみるとか。それも、何色か違う色を試して選んで。一番綺麗に見えるものを考えていきます。
――anan読者が今のうちにやっておいたほうがいいと思うことはありますか?
自分のやりたいことを見つけてそこに向かって進むほうがいいです。誰に何と言われようと。洋服やメイクとか、なんでもいいので。思いっきり頑張ってダメだったら、また違う道があると思うし。たとえ今は安定した生活を送っていたとしても急に一人ぼっちになっちゃったり、食べていけなくなったり、何があるかわからないでしょう。自立して、自分の好きな仕事をしておかないと、そういう時に結構キツイと思います。
――好きなことの見つけ方とは?
好きなことはわからないけど、嫌いなことはわかるんです。食べ物もだけど、理由があるから。そして、私の場合、好きと嫌いの中間がないから、嫌いなものを避けさえすれば、あとは好きなものだけが残るので、それをやるの。
――迷うこともないですか?
今みたいにインタビューをされている時かな。どう答えようかな、こう言っても理解されないかな、こういうふうに言ったら変な人に思われるだろうな、とか。まあ、もともと変な人なんですけどね(笑)。あとはね、たとえば、すごくわかりやすいところでいうと、買い物に行って2つのもので迷ったら、どっちも買わないでやめるんです。今日はやめたと思って帰る。時間がもったいないですから。
――好きな人として沢田研二さんの大ファンを公言されています。
今でも頑張っている姿勢が好きですし、歌声が変わらなくてすごいです。やっぱりジュリーはジュリー。昔の歌手は声を聴くだけで誰かわかるし、何を歌っているかもわかる。今は歌詞が聞こえない、ただの音楽になっちゃっているというか。「歌」になっている人は数名しかいないと思います。
――親交の深いMrs. GREEN APPLEの大森元貴さんもその一人なのですか?
すごい努力をされている人ですね。天才は努力をしていますから。
――歌手に限らず、他に素敵だなと思った方はいますか?
高倉健さん。私がディナーショーをやっている時に楽屋に来てくださったんです。扉を叩く音がしたからすっぴんで出ていくと、「これから仕事で拝見できなくて申し訳ございません」とおっしゃって、シャンパンを渡してくださったんです。もう、びっくり。後に武田鉄矢さんから聞いたんですけど。健さんと映画撮影の合間に時間があくとドライブに行ってたらしいのですが、車には私の歌が全部入っていて、「彼女の大ファンで、いつも彼女の歌を聴きながらドライブをするんだ」と話していたと。だから、楽屋まで来てくれたんだなって。
――素敵すぎます!
世の中にはそういう方がいらっしゃるんですよ。
――ちなみに、先ほど過去は振り返らないとおっしゃっていましたが、未来のことは見ていますか?
ずっと未来のことしか考えていないです。でも、それがどんなことかと言われたら内緒。言えないことはないけど。クックック…。
――翻弄されています!
60歳の時かな、私は世界に出ますと言ったのですが、少しずつ世界に羽ばたき始めています。最近は日本語で歌ったものをコンピューターが英語にしてくれるので便利ですよね。海外の人たちに気に入ってもらえる音楽でさえあればオッケーなので頑張りたいなと。
Profile

研ナオコ
けん・なおこ 1953年7月7日生まれ、静岡県出身。1971年にデビュー。『愚図』『あばよ』『夏をあきらめて』をはじめ数多くの大ヒット作をリリース。『志村けんのバカ殿様』などバラエティ番組でも活躍、俳優としてもさまざまな作品に出演している。55周年記念アルバム『今日からあなたと... Starting today, with you』が発売中。
Information
『うぉっしゅ』
ソープ店で働く加那(中尾有伽)は、母に頼まれて1週間だけ祖母である紀江(研ナオコ)の介護をするが、認知症が進む祖母に対してだけ、本当のことを打ち明けられることに気づく。また、祖母の人生と孤独も垣間見えて…。監督・脚本は岡﨑育之介。5月2日から新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか、全国の劇場で公開される。
anan 2445号(2025年4月30日発売)より