介護の現場2 ローカルな暮らし×介護を体現する【くろまめさん】で、幅広い交流を楽しみながら働く

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2024.10.16

写真・吉村規子 取材、文・鈴木恵美 PR・厚生労働省

ハードルが高いイメージがある介護の世界。しかし、サービス形態も多様で、施設ごとに理念も異なるため、やりがいを感じられる場所を見つけて、個性を輝かせながら働けるのが介護の魅力でもある。そこで様々なカタチで介護と向き合っている人たちの働き方に注目。

クリエイティビティを生み出す、
やりがいのある介護の現場。

“介護×田舎暮らし”をコンセプトにした全国的に注目を集める介護施設。その魅力に惹かれ、京都に移住し介護と向き合う女性にフォーカス。


お話を伺った方
安部稚畝さん
あべ・わかほ 介護福祉士。介護の専門学校在学中に、インスタグラムで「くろまめさん」を知り、卒業と同時に生まれ育った千葉から京都に移住。理想の介護を追求し、働き始めて2年目。利用者さんからいろんなことを教わる日々で、お世話になっている方々に恩返しをするのが夢。

利用者さんが主体性を持っていきいきと過ごせる環境が整う。

黒豆、丹波栗などの特産物で知られる京都・京丹波町。山や畑といった丹波高原の豊かな土壌に囲まれた田舎町の一角に、古民家風の温かみ溢れる建物がある。ここがデイサービス「くろまめさん」。“介護×田舎暮らし”をコンセプトに、利用者さんに「生きててよかった」と思ってもらえるような介護に取り組んでいる。ユニークな取り組みは、SNSや新聞などを通して評判を呼び、開設当初は1日あたり10名だった定員が、今では30名に拡大。また2023年には、過疎の町の活性化や、介護に関わる人々の交流の拠点となるよう、施設の隣にあった納屋を改装し、ピザ屋をオープン。京丹波町の特産品や地元野菜を使ったメニューが連なり、日曜日だけの営業だが、全国から人々が訪れ、賑わっている。

“介護は日常の延長”という代表の稲葉耕太さんの考え方に基づき、内装や設備に介護用品はできるだけ使用せずに設えを工夫。田舎のどこにでもある家のように、昔ながらのかまどや土間がある台所、畳の広間、薪ストーブが暖かいリビングなどが広がる。お風呂は青森ヒバと信楽焼の湯船で、十和田石が敷き詰められ、体が冷えにくく、滑りにくい工夫がされている。入浴介助も機械には一切頼らず熟練の介護技術で、どんな重度の方でも、ゆったりと入浴できるという。庭には利用者さんと共に育てている畑があり、2匹のヤギが草を食べている。どこを見渡しても、一般的な施設とはかけ離れている「くろまめさん」。そこで働くために、千葉県から移住してきたのが介護福祉士の安部稚畝さんだ。

農家出身の利用者さんからノウハウを教わりながら収穫。

「昔から人生の先輩の話を聞くことが好きだったので、高校3年生の時に介護の道を考えるようになりました。ただ、当時はそこまで深く考えておらず、介護はなくてはならない仕事だから、資格を持っておけば職に困らないだろう…と、軽い気持ちで介護の専門学校に進学しました。専門学校では、介護とは『利用者のより良い生活の実現』のために必要なことだと教えていただき、とても魅力的な仕事だと思い始めました。でもいざ実習に行ってみると、実際の介護現場と私の理想には、かなりのギャップがありました。決まり切った業務をこなす毎日で利用者さんと話をする時間もなく、介護の在り方に違和感を覚えました。そんな時に『くろまめさん』の存在を知り、思い切って見学会に参加させてもらったんです。そこには、利用者さんがお世話されるだけの存在ではなく、人生で得た生活の知恵や技術を発揮しながら、いきいきと過ごされている姿がありました。これこそが私が求めている介護のカタチだと思いました」

安部さんが焼いた卵焼きを、利用者さんが切る連携プレーで食事の準備が進む。

「くろまめさん」は、お世話するだけの介護から脱却し、介護者、要介護者の垣根なく知恵を出し合って、昔ながらの田舎暮らしを実践している。また、利用者さんの人生を深く知り、会いたい人に会いに行ったり、思い出の場所を訪ねたりすることも、日常の楽しみにしている。“お世話をする仕事”という一般的な介護のイメージから“人を幸せにする仕事”へと変えていきたいという思いがあるからだ。そんな理念に惹かれて、安部さんは専門学校在学中に面接を受け、卒業後すぐに京都に移住し働き始めた。安部さんの一日は、仲間たちと一緒に「今日は何をしようか?」と話し合い、利用者さんを迎えに行くことから始まる。決まったスケジュールがないので、畑を耕したり、梅干しを漬けたり、ドライブに行ったりと、一日一日がみんなの思いで作られていく。利用者さんと共にごはんを作り、同じ卓で一緒に食べる。もちろん入浴や排泄の介助が必要な時はしっかりサポートをしつつ、利用者さんのやりたいことを引き出し、共に取り組んでいく。施設内はいつも笑い声に包まれる。

みんなで梅干しの仕込み中。

本日のお昼ごはん。季節感溢れる料理のほか、利用者さんの得意料理が並ぶことも。

ほかのスタッフと情報共有したり意見を交換し合う時間。自然と利用さんが寄ってきて、和気あいあいとした雰囲気に包まれる。

「私が働き始めて最初に感じたことは、介護=お世話することだと、無意識のうちに思い込んでいたんだ! ということです。でも『くろまめさん』の介護は、当たり前の生活があった上で、その人の喜びや悲しみなどを共に分かち合うこと。当たり前の生活というのは、私たちが日常の中で普通に行っているような、トイレに座って排泄したり、機械を使わずに湯船に浸かって疲れを癒したり、たわいもない会話をしながらごはんを食べたりすること。体が不自由になっても、認知症になっても、的確なサポートがあれば、そんな当たり前の生活が続けられます。その中で、介護者と要介護者の関係ではなく、“あなたと私”という関係を築いていくことが、介護の本当の魅力だと私は考えています。当たり前の生活の中で、利用者さんと様々なことに取り組んでいるうち、その方が自信を取り戻し、いきいきとされる瞬間があります。それを見ていると、とても嬉しい気持ちになるんです。利用者さんとの関わりは、新たな発見ばかりで、私自身の成長にも繋がっています」

利用者さんのかけがえのない存在になることが今の目標。

しかし利用者とスタッフの関係を超えた関わりが大切だと理解していても、その関係を築くために具体的にどんなことをして、どんな気持ちで接したらよいのかわからず、戸惑っていた時期があったと本音を漏らす。

「いま思えば『もっと仲良くならなければ』と焦っていたのかもしれません。しかしある利用者さんとの関わりで、私は変わりました。その方は、デイサービスの延長で、そのまま宿泊ができるサービスを利用されています。夜になると眠れず『来てくださ~い』と、何度も呼ばれるのです。私は正直、『これは大変だ…』と思っていたのですが、その方の体調が優れず、ある日を境にお休みされるようになりました。その時、無意識にその方に会いたいと思っている自分がいました。あんなに大変だと思っていた夜中の呼び出しの声が、聞こえないことを寂しく思い、『またあの声が聞きたい』とすら思うようになっていたんです。共に過ごした日々の積み重ねで、私にとって自然とかけがえのない大切な人になっていた。その体験を経て、今度は私が、利用者さんのかけがえのない存在になるために、一緒に過ごす日々を、当たり前に丁寧に積み重ねていきたいと思っています」

みんなで手作りしていく、
アットホームな介護がここに。

利用者さんとスタッフのほか、近所の子どもたちも交えて記念撮影。まるで家族のよう。

僕たちがお出迎えするメ~!
DATA : くろまめさん

介護に携わる人向けの研修会「介護の寺子屋くろまめさん」を月1回ペースで開催。隣の飲食店『田舎PIZZAおピザはん』は日曜のみ営業。

京都府船井郡京丹波町富田井上82
☎0771・82・2205 デイサービス
https://kuromamesan-kaigo.com/


本プロジェクトは厚生労働省補助事業 令和6年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)として実施しています。(実施主体:マガジンハウス)


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