ノーベル賞受賞を機に、飢餓問題に注目が集まれば。
今年のノーベル平和賞は、国連世界食糧計画(WFP)が選ばれました。WFPは、飢餓と貧困をなくすことを使命とする、国連唯一の食糧支援機関です。世界では6億9000万人の人が十分な食料を得られず、空腹に苦しんでいるといわれています。WFPは難民キャンプに食料を届けたり、学校給食を配布したり、紛争や飢餓で栄養不良に陥っている母子に援助を行うなどしており、2019年には88か国、約1億人への支援を行いました。空港が閉鎖された紛争地や辺境の地までも届けなければならないので、WFPはトラックのほかに、30隻の船や100機の専用飛行機も持っています。
日本円に換算すると、例えば3000円寄付をすると赤ちゃんに75個の栄養強化ペーストを届けることができ、5000円ならば子ども1人に1年間給食を、1万円では5人世帯の家族を1か月、食糧支援できるのだそうです。
貧困地域にも開発の手が入り、2000年代に入り、少しずつ改善されてきていたのですが、紛争やテロ、気候変動が原因で、2014年以降、飢餓人口は再び増加に転じてしまいました。先進国が過剰に開発を進めてきたために気候変動が起き、経済的な困窮、格差拡大により、内戦やテロが起きています。世界の飢餓の問題には思想も国家も関係ありません。今回、ノーベル平和賞を受賞したのも、いま世界中の人が参画して対策を打たねばならないという、国際協調を訴えるメッセージも込められていたのだと思います。自分の暮らしとは関係ないと日本の人々は思うかもしれません。でも、日本は多くの「食品ロス」を生んでいる国。全く無縁と言い切れるでしょうか?
コロナ禍においては、WFPは衛生面の大切さも伝えており、食料とともに石鹸も配布。ただ、パンデミックにより飢餓人口は急激に拡大、年末までにさらに1億3000万人以上の人が慢性的な飢餓に陥るだろうといわれています。SDGs(持続可能な開発目標)では「2030年までに飢餓をゼロに」と掲げていますが、実現を危ぶむ声も。WFPの公式ツイッターでは、現地の写真をたくさんアップしていますので、現状をぜひ知ってください。
堀 潤 ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。
※『anan』2020年12月16日号より。写真・中島慶子 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)