日常への不安や、自分に対する嫌悪感や自己懲罰的な感情など、自分に向かってくるような悩みについて、哲学者の永井玲衣さんと精神病理学者の松本卓也さんと一緒に考えます。
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Profile
対話する哲学者・永井玲衣
ながい・れい 人々と考え合い、聞き合う対話の場を年間300回ほど開いている。戦争について表現を通して対話する写真家・八木咲さんとのユニット「せんそうってプロジェクト」などでも活動。著書に『これがそうなのか』(集英社)など。
悩みを肯定する精神病理学者・松本卓也
まつもと・たくや 京都大学大学院人間・環境学研究科総合人間学部准教授。ドイツ、フランスの精神病理学を基盤に、精神分析を研究する精神科医。著書に『斜め論』(筑摩書房)、『ジャック・ラカン フロイトへの回帰』(岩波新書)など。
Q. 何事にも頑張れなくなった。すぐに諦めてしまいます

A. 感情の根っこを探ることで心を動かす
こちらは、永井さんが哲学対話の場で出会った、30代半ばの女性からの問い。20代の頃は前向きで行動的だったのに、年を重ねるにつれ、何事もすぐに諦めてしまうようになったそうで…。
「乗る予定の電車に間に合わせることすらできなくなったと、モヤモヤを抱えていました。こうしたささやかで切実な“手の平サイズの問い”は思わぬ発見があって、私は大好きです。実際、対話を通して意外なことが見えてきました」
「頑張る」と「諦める」どちらに関心があるか尋ねたところ、その人が選んだのは「諦める」だったという。
「それまでずっと頑張り続けてきた彼女は、最近になって諦めるという感情に直面し、どう扱っていいのかわからず戸惑っていたんです。しかも、その感情を排除したいのではなく、どう共存していくかを探っていることもわかりました」
最終的に彼女は、諦めるという感情は「執着が消えて余裕が生まれたことの表れでもある」と納得したのだそう。
「『すぐ諦めてしまう』という悩みを表面だけで捉えていたら、モヤモヤは解消されなかったかもしれません。悩みには必ずその人なりの理由があり、それを探っていくことが大切です。どんな小さな悩みでもじっくりほどいて深掘りしていくと、固まった心が動いていきますよ。みんなであれこれ話しながら頭が整理され、予期せぬ気づきが生まれたことに本人も驚いていましたね。これが対話の醍醐味です。人は視点が変わると、一気にラクになったりするもの。悩みに向き合う時も思い出してほしいです」
- 諦める感情をどうしたいか考える。
- 小さなモヤモヤを深掘りする。
- 悩みを俯瞰してみる。
Q. 掃除や片付けなど生活の基本的なことができない

A. 過去の親との関係から醸成された苦手意識かも
自分に対するモヤモヤは、精神分析の見地では、「悩みが違っていても、根本的な考え方は同じ」と松本さん。
「『生活の基本的なことができない』というのも、自分にとって大事な何かの輪郭くらいは見え始めていて、それに対してひるんでいる状態といえるでしょう。でも、最近はこんな悩みの原因として、『ADHD(注意欠如・多動症)』を疑われることもあるかと思います。一見すると納得感があるかもしれませんが、きちんとした医師の診断も受けず、時流の言説を鵜呑みにしてしまってよいのでしょうか。まずは、掃除や片付けを自分がどう感じていて、何に怯えているのかを言葉にしてみるといいと思います。やはり他者に話すのが有効で、話すことにより、それが両親との関係につながっているなどの気づきを得やすくなるのです」
生活の基本的なことの中でも、家事にまつわる苦手意識は母親と関わっていることがあり、役所への届け出など事務作業に関わる拒否感は、“父親的なもの”への恐れが考えられるそう。
「事務作業は、いわば社会的なルールの象徴のようなもの。自分が事務作業をしている時の状況を人に話していくうちに、『煩わしい!』など、父親の口癖や言い回しが無意識のうちに出てきて、ハッとすることがあるかもしれません。だとすると、恐れの実態は事務作業ではなく、その背後にある“父なるもの”との関係に由来するのでは。しかし、父親や母親のイメージは、結局、自分の心の中で作り上げたもの。“思い込み”を解くことで、乗り越える術が見えてくるでしょう」
- 苦手意識は“大事な何か”に近づいている印。
- なぜ掃除や片付けが苦手なのか言葉にしてみる。
- 親の“イメージ”の呪縛から解き放たれよう。
anan 2481号(2026年1月28日発売)より






















