忙しすぎて、読書、会話の機会減少が大きな原因に。
OECDが79の国と地域の15歳を対象に3年ごとに実施する国際学習到達度調査(PISA)。昨年12月に結果が発表され、日本の読解力が前回、2015年の調査の8位から15位に大きく下がってしまいました。ちなみに前々回は4位。この調査は、筆者の意図や登場人物の心情を読み解く「読解力」ではなく、文章に書かれた情報を正確に読み取り判断する力が問われます。同時に調査した、数学的リテラシーは5位から6位、科学的リテラシーは2位から5位に下がりました。科学知識を活用し、推論を立てて証明する能力が落ちている原因は、読解力にも結びついています。虚実入り交じった情報が多く飛び交う現代で、的確に情報を理解し、自分なりに分析・処理できないというのは大変危ういことです。
文科省は、順位が落ちた理由を、手書きからパソコンで回答する方式に変わり、IT機器の扱いに慣れていないことが影響した可能性があると発表しましたが、原因はもっと根幹にあるのではないでしょうか。
読解力は、普段から小説やルポルタージュなど、長文に親しんでいる学生のほうが点数が高かったと報告されています。しかし、読解力を養うには、読むだけでなく、それを題材に議論をして思考を深めることが不可欠です。ところが、日本は、お互いの意見を述べ合いディスカッションする場があまりありません。
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僕は取材を通して、大人の読解力の低下も感じています。質問に対して、「言葉が苦手なので」「難しくてよくわかりません」と返答されることが少なくない。毎日が忙しすぎて、いまがどういう状態にあるのか、自分はどういう気持ちなのか、自身と向き合って、言葉で言い表す余力を失ってしまっているのだと思います。子どもの読解力を高めるには、家庭や学校での普段のコミュニケーションも大切です。その相手である親や先生がひっ迫しており、十分な話し相手になれていないというのは大きな問題でしょう。読解力の低下は、アイデンティティの形成にも影響を及ぼします。子どもにきちんとした言葉の力を身につけさせることは、最重要事項なのだと思います。
堀 潤 ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。映画『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)が3月7日公開。
※『anan』2020年2月12日号より。写真・中島慶子 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)