
高畑鍬名『Tシャツの日本史』
白いTシャツが似合う男性は間違いなくカッコイイ。小誌でもたびたび、白Tをまぶしく着こなすスターたちが表紙を飾ってきた。その着こなしのポイントに、タックイン/タックアウト(トップスの裾をボトムスに入れる/出す)があることに気づいたのがタックイン研究家の高畑鍬名さんだ。なんとTシャツの裾の出し入れについて、約20年以上研究してきた。
Tシャツを着こなす際の重要事項は裾のさばき方!? 著者の慧眼に脱帽
「1990年代頭に裾出しが一般化したとき、大人はダラシないと怒ったんです。でも2005年ごろ、話が変わります。たとえば、ドラマ『電車男』とほぼ同時期に発売された『脱オタクファッションガイド』では、タックインは『みっともないのでやめましょう』と呼びかけているのです。オタクもオタク以外も動揺しますよね、価値観が反転しているので。この謎、というより不条理を追いかけているせいで、本棚がパンパンなんです。木村拓哉さんと菅田将暉さんという、Tシャツ史におけるエポックメイキングな彼らが載った雑誌や本がずらりと並ぶコーナーができてしまったので」
若者にとって、ある時期はTシャツの裾を入れるのが普通なのに、やがてそれはダサいと笑われ、はね返すように裾を出すようになる。そしてまた、逆に入れたほうが最先端な時代がくる。ダサいとカッコイイが周期的に反転するのはなぜなのか。
「インかアウトかを間違えると、友達にバカにされるわけです。ただ、ダサさが極まると次の若者たちがそれをハイジャックして、ダサいものをカッコイイものに書き換え始めるのです」
Tシャツは本書の中心的モチーフではあるが、中身はむしろ、色濃い、無二の、社会文化論になっている。
「『ポパイ』の創刊号の扉ページに“メンズアンアン”と書いてあった話など、細かすぎる小ネタもたくさんありますが、ファッションの流行を憎んでいる人にほど、刺さる本です。流行なんてどうでもいいと、日本人は150年前から思っていました。服を着崩したい、背伸びしながらドレスダウンしたい、そんな思春期のモチベーションを明治時代から追いかけています。あなたの心の鎧になるような、アンチファッションの言葉をたくさん引用しています。きっと、素敵な叱咤激励が見つかりますよ」
Profile

高畑鍬名
たかはた・くわな 1984年、東京都生まれ。おそらく日本初の“タックイン研究家”。早稲田大学大学院文学研究科表象・メディア論コース修了。2021年にTシャツの裾をテーマにした個展を開催。
Information
『Tシャツの日本史』
Tシャツが印象的な米国映画といえば『欲望という名の電車』や『理由なき反抗』。だが小津映画のほうが先んじていたなど、発見多し。中央公論新社 2200円
anan 2468号(2025年10月22日発売)より




























