三原和人『宙飛ぶバイオリン』1

数学に情熱を注ぐ少年たちや天才たちを描く『はじめアルゴリズム』や、能楽の祖・世阿弥を軸にした『ワールド イズ ダンシング』など、ユニークな題材をマンガ世界に巧みに落とし込む達人・三原和人さん。


実際に音楽が鳴っているかのようなビジュアルで魅せる思春期ストーリー

最新作『宙飛ぶバイオリン』で選んだモチーフは、音楽と宇宙だ。思春期のもやもや全開のボーイミーツガールに、読者も甘酸っぱい気持ちになる。

バイオリンに挫折し、転校先の中学校にもなじめない吉田良雄。ある日の音楽の時間、彼は朗々と歌う見知らぬ同級生・天野テセラに釘付けになる。しかしクラスメイトたちは“テセラは前からクラスにいた”と口を揃える。混乱の中、吉田はテセラと屋上で仰天の再会をする。

「僕がこれまで描いてきた作品と同じ、ビルドゥングスロマン(成長小説)的な要素は本作にもあります。テセラという謎めいた存在は物語をいかようにも広げていけるキャラなので、バイオリンという縛りを設けておいたのが結果的によかったかも。毎度、数学とか能とか、自分自身が詳しいわけでもない世界を題材に描くので、勉強しながらなんですよね。今回はバイオリンを習うことにして、結構楽しんでいます(笑)」

たとえば、吉田がテセラを追いかけていった屋上で味わう、宇宙に放り出されたような感覚。テセラが地球にやってくるきっかけになった、無人宇宙探査機ボイジャーに積まれたゴールデンレコードに収められた音楽。それらが圧巻の想像力で画に変換されていて、うっとりする。

「割と一回一回、どんな事件が起きるかを最初に決め、ならばこの子たちはどういうふうに動くんだろうと考えます。まず映像みたいなものが浮かんできて、それを少しずつ絵にする作業を重ねて、物語が組み上がっていく感じですね。キャラクターも設計して作っていくのは得意ではなくて、ある状況に追い込まれたときにそのキャラクターらしくない言動をしないようにしようくらいは意識しますが、基本的にはネームの中で自然な受け答えを考えて肉付けしていきます」

三原作品を考える上で欠かせないのが、「才能」についての考察だ。

「運や志や努力などももちろん深く関係があるけれど、ひとりでは成り立たないのが才能と呼ばれるものではないかと。作中で、吉田はテセラとの対話を通して初めて他人に僕のバイオリンを聴かせたいという気持ちを持ちます。その人が好きだというものに対して、誰かが期待してくれたり、求めてくれたり。そんなふうに周りから必要とされることが大事なのかもしれませんね」

Profile

三原和人

みはら・かずと 福井県出身。マンガ家。2017年、マンガ週刊誌『モーニング』でデビュー連載「はじめアルゴリズム」の掲載を開始。本作も同誌で連載中。

Information

『宙飛ぶバイオリン』1

1巻の最終話近くで仙波カノンというバイオリンの天才少女が新たに登場。吉田とテセラ、カノンという3人の関係の行方が気になる! 2巻が10/23に発売。講談社 792円 Ⓒ三原和人/講談社

写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2468号(2025年10月22日発売)より

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