
鶴巻和哉監督
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』とはなんだったのか? 話題の本作について、鶴巻和哉監督に振り返っていただきました。聞き手はガンダム好きでも知られるオモコロライターの加藤亮さん。TV放送を楽しんだひとりのファンとして質問をぶつけてもらいました。
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『ガンダム』だからこそできた、新たな歴史を生み出す余白
大のガンダム好きである加藤さんは緊張の面持ちで取材に臨むも、鶴巻監督はにこやかに応対。コアな質問にも誠実に答えていただいた。

―― 『ジークアクス』のおかげで『機動戦士ガンダム』などの過去作も周りに薦めやすくなりました。
鶴巻 ありがとうございます。嬉しいですね。
―― 実際に作り終えての反響はいかがでしたか?
鶴巻 当初はプレッシャーの方が大きかったです。特に、昔から応援してくれているガンダムのファンの方々にどう受け止められるかわからない設定なので、良い方で話題になってくれるといいな…と思っていました。特にその口火を切るシャアは慎重に描きましたね。
―― シャアがガンダムに乗ることも含めて、ファンにとってはご褒美のような描写も多くあったのが人気と反響に繋がったと思います。
鶴巻 元々はシャリアを筆頭に、『機動戦士ガンダム』であまり登場しなかったキャラクターを積極的に物語に絡めて、シャアをはじめ有名キャラはそこまで描かないことも考えていました。歴史上の人物として扱うというか。
―― そうなんですね! 僕はシャリアのデザインが変わったことには驚きました。
鶴巻 シャリアの元々のデザインが、(『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナーである)安彦良和さんでないことはファンの間では知られていて。ただ、『機動戦士ガンダム』の富野(由悠季)監督が自ら書かれた小説では、シャリアがシャアの副官として活躍するんです。その小説を読んで、彼をもっと掘り下げられたら面白いと考えていました。
―― 全12話の中に内容がギュッと詰め込まれているのも現代的で面白いと思ったのですが、根幹にあるパラレル要素は過去にゲームや漫画でも描かれています。その楽しさを『ジークアクス』でどう表現しようとしたのでしょうか?
鶴巻 前提条件として、ifを描くにはみんながその歴史を知っていることが大事です。仮想戦記と呼ばれる、過去の戦争を題材に「もし別の決断をしていたら?」という、史実とは別の物語が展開していくジャンルがあるのですが、それは題材となる大戦を誰もが知っているからできます。同じように、『機動戦士ガンダム』の一年戦争の歴史は、多くの人々に知られている。シャアも主人公のアムロ・レイに並ぶほど知名度が高い。であれば、仮想戦記が可能なのでは、という発想でしたね。
―― シャアがガンダムに乗るのは劇場で腰を抜かしそうに…。
鶴巻 まず、(正史で敗退する)ジオンが勝利した世界を描きたいと思っていました。そこで、ガンダムがシャアに鹵獲(ろかく)されることで歴史が変わればわかりやすいですよね。そこが決まったら、あとはドミノ倒しのようにいろんなことが決まっていきました。
―― 特に印象深かったのは、ララァの役割です。
鶴巻 まさにそこは、シャアがガンダムに乗る話のあとに決まりました。ララァが改変に介入し、彼女が望んでいる世界にしようと。これは通常の仮想戦記とは違って、SF的な発想です。誰かが「改変」を望み、その意思によって世界が作られるという。
―― ララァは、『機動戦士ガンダム』ではミステリアスな存在と感じていたのですが『ジークアクス』では女性としてかわいらしい一面が垣間見え、とても新鮮です。
鶴巻 そうかもしれませんね。普段は超然としていて表情からは読み取れない、けれど少し女の子っぽさは出したいと思っていました。とはいえ、元々あるララァの魅力を損なうことは避けたいと考えていたので、丁寧に描きましたね。
―― 一方で、『ガンダム』をはじめて見る人のための工夫はどのように考えられていましたか?
鶴巻 新規層や若い人にアピールするために、マチュやニャアン、シュウジの物語を展開しました。以前からのファンには歴史のif部分を楽しんでもらえたと思いますし、TVシリーズではそれが前提条件となって、3人の物語がある。その融合が、若い世代に評価されていたら嬉しいですね。
―― 竹さんのキャラクターデザインや、劇伴や主題歌をはじめとする音楽も新規層を掴んだのではと。
鶴巻 それはあると思います。スタッフからも、「マチュとキシリアが同じ世界線にいるのは大丈夫でしょうか」と懸念が出ました。ただ、僕はそこまで抵抗がなくて、例えば『ルパン三世vs名探偵コナン』のようなシリーズもある。従来の『機動戦士ガンダム』の絵柄と竹さんの絵柄も相性は悪くないので、同じ画面に置いても大丈夫だと思っていました。
オモコロの加藤さんがどうしても聞きたい物語の制作秘話
全12話の中から、加藤さんが特に気になるエピソードを3つ挙げてもらい、鶴巻監督に語っていただきました。
第1話「赤いガンダム」混乱と驚きを視聴者に。幻となったアバン構想も

劇場先行版として『Beginning』が先に公開されたので結果的に安心して見られた人も多かったとは思いますが、元々は視聴者の混乱を呼ぼうとした回でした。宇宙世紀なのか、それともオリジナルシリーズなのか。どちらかわからない状態でスタートして、その中で「ジオンが勝った」とか、シャリア・ブルと呼ばれる人物が登場することで「もしかして宇宙世紀では?」と思わせて引き込む流れですね。ちなみに初期稿だと、冒頭のアバンタイトルまでのパートで、シャアがサイド7に侵入し、ガンダムを立ち上げるところまで描かれる予定でした。そこで時間をスパッと5年後に飛ばして、シャリアがサイド6にやってくるところから描写するという案も。
第4話「魔女の戦争」マチュに影響を与える女性兵士の覚悟と生き方

『ジークアクス』の企画書を最初に作成したとき、シャリア・ブルの名前はまだ出てなかったのですが、シイコ・スガイの名前はすでにありました。それくらい、この4話のクランバトルのエピソードは僕にとって描きたいものでした。シイコは軍人を辞めて結婚し、母親になっている。だけど、赤いガンダムへの執着からすべてを投げ捨てて戦場へ戻ってきます。クランバトルとはいえ戦場なので、本人には命を落とす覚悟もある。それは女性の生き方、という面でマチュにも大きな影響を与えただろうし、マチュの成長にも繋がったと思います。ちなみにシイコのデザインは、当初からあのお母さんぽい、ふわっとしたイメージで発注していました。
第11話「アルファ殺したち」最終回に繋げるための過度に凝縮された物語

最終回までの大まかな構成はもちろんありましたが、後半になると前の話数を受けてより面白くする、という手法で進めていました。この11話も、かなり大掛かりな現象や事件が発生しつつその中でキャラクターが飛び回り、さらにジークアクスのリミッター解除なども1話の中に詰め込まれています。そこは本当に榎戸さんに頑張ってもらいましたね。クライマックスに向けて話を展開するとどうしても自由度が失われるなか、あちら側の世界からガンダムも登場して、なんとか最終回のオチに繋げるものができたと思います。全体を振り返れば、時間の経過を省略しているところも。その分、コンパクトな物語にならず、遠くまで行けたかなと感じていますね。
Profile
鶴巻和哉
つるまき・かずや 1966年生まれ、新潟県出身。アニメーション監督、アニメーター。株式会社カラー所属。主な監督作に、OVA『FLCL』『トップをねらえ2!』、TVアニメ『龍の歯医者』、映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズなど。
加藤 亮
かとう・りょう 1985年生まれ、愛知県出身。株式会社バーグハンバーグバーグに所属するライター、編集者。大のガンダム好きで、オモコロチャンネルでもその知識の深さからガンダムシリーズをわかりやすく解説している。
機動戦士Gundam GQuuuuuuX
Blu-ray & DVD

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』 vol.1
【特装限定版(BD2枚組+CD)】¥19,800
【ディスクレスパッケージ】¥8,800
【DVD】¥6,600(税込)
2026年1月28日(水)発売。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning- 』
【4K ULTRA HD Blu-ray+Blu-ray(UHD-BD+BD)】¥10,780
【DVD】¥3,850
5月27日(水)発売。
anan 2465号(2025年10月1日発売)より