日本バレーボール界待望の大型アウトサイドヒッターは、強いハートも持ち合わせた超新星。応援の大切さを知る21歳は、会場が沸けば沸くほど、そのスパイク、サーブに力がこもる。

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    シャイだけど強心臓。そのギャップが魅力

    試合会場に、背番号「15」のユニフォームを着たファンの姿が目に見えて増えている。そんな話をすると、甲斐優斗選手は顔をくしゃっと緩ませた。トレードマークの“甲斐スマイル”でこう話す。

    「すごく嬉しいです。コートに入場するときに15番を目にすることが多くなったし、“売り切れ”という情報を見ると、それだけ応援されてるんだなと感じます。“甲斐君”と書いた手作りのうちわが見えたり(笑)」

    柔らかい物腰の21歳は、いま絶大な人気を誇るバレーボール男子日本代表の“未来のエース”として熱い視線を浴びている。

    2023年に19歳で日本代表デビューし、昨年はチーム最年少の20歳でパリ五輪に出場した。任されたのは主にリリーフサーバー。極限の緊張感が漂う勝負どころで起用されても、普段と変わらぬ穏やかな表情で重量感あるサーブを打ち込み、得点に繋げると満面の笑みでチームメイトとハイタッチ。今年はサーブ以外でもコートに入る機会が増え、海外の強豪相手でも高さで引けを取らない唯一無二のスケール感を示している。

    “ギャップ”がファンを惹きつける。身長2mの大型選手でありながら、器用で身のこなしも柔らかく、守備もメキメキと上達している。普段はシャイで前に出るタイプではないのに、コートに入れば大胆で強心臓。その捉えどころのなさにハマる人が続出している。

    強みは本人も自覚済み。「甲斐選手の武器は?」と尋ねると、控えめに、けれど迷いなく答えた。

    「“高さ”はこれからもずっと武器になっていくと思いますし、どんな状況でもいつも通りのプレーができるのは強みかなと思います。内面的なものは小さい頃から鍛えられているので(笑)。小学生のときからチームのエースと言われて、『お前が全部決めろ』という感じだったので、気持ちの部分でブレないというか、引くことは少ないのかなと。体力的にもメンタル的にもプレッシャーをかけられながら練習していたので、そこは今、生きているかなと思います」

    その勝負強さはファンの誰もが知るところで、彼がコートに立つと「きっと何かやってくれる」という期待感が高まる。7月に千葉で行われたネーションズリーグでも、リリーフサーバー甲斐の名前がコールされると満員の会場は沸き、“甲斐コール”に包まれた。

    「自分が入るときに会場が沸くのは、期待されているということなのですごく嬉しい。沸けば沸くほどモチベーションも上がりますし、『サービスエース取ってやろう』という気持ちにもなります。そういう声って選手は聞こえているので、すごく力になる。バレーは流れのスポーツなので、その流れを引き寄せ、試合を有利に進めるためにも応援は本当に大切だなと感じています。やっぱりコートに入るときにシーンとしていたら……選手としてもそのテンションでプレーしてしまうと思いますし」

    静まり返った晴れ舞台。「本当に寂しくて」

    応援の力に気づいたのは、皮肉にもそれが失われたときだった。日南振徳高校3年時の春高バレーでは、前衛でも後衛でも一人でスパイクを打ちまくり、優勝候補を次々に破って準決勝に進出。通常なら観客席は大変な盛り上がりになっていたはず。ところがその年はコロナ禍のため無観客開催で、シーンとしたコートに審判の笛とボールの音だけが響き渡った。

    「無観客の会場は本当に寂しくて……。準々決勝までは4面のコートで同時に試合が行われたので、それなりの騒がしさがあったんですけど、(準決勝で)センターコートになった途端に、すっごい寂しいなと。本当に静かで、淡々と試合が過ぎていく感覚。流れを掴むことができないまま、あっという間に試合が終わりました」

    準決勝は0-3で敗れた。

    その頃、会場に行けない母が気落ちする姿を見て、応援がなくなって寂しいのは自分だけじゃないということにも気づいたそう。

    「あのときは親ですら会場に入れなかったので、母は『試合を観に行けないから面白くない』とずっと言っていました。その後、観に来られるようになってからはほとんど来てくれています。高校の恩師も、パリ五輪にまで足を運んでくれて。身近で応援してくれる人たちにとっても、それが楽しみになっているんだなと。だから自分がもっと頑張って、周りの人たちを楽しませるきっかけを作ってあげられたらいいなと思います。自分が楽しみながらプレーすることで、ファンの人たちや家族もより楽しませられると思うので、そこはこれからも続けていけたら」

    大声援の中でもプレッシャーは微塵も感じない。21歳の未完の大器は、すべてを追い風にして大きな夢に向かっていく。

    「オリンピックでメダルを獲ることが最大の目標ですし、個人としては石川祐希選手や髙橋藍選手を超えられるようなプレーヤーになっていけたらなと思います」

    Profile

    甲斐優斗

    かい・まさと 2003年9月25日生まれ、宮崎県出身。専修大学4年。ポジションはアウトサイドヒッター。'23-'24シーズンはフランスリーグで経験を積み、パリ五輪に20歳で出場。今季はSV.LEAGUEの「大阪ブルテオン」に入団。2mの長身を活かしたスパイク、サーブが武器。

    ジャケット¥11,880(リメール/リメール ストア TEL. 03-6276-7644) シャツ¥5,920(キャスパージョン/シアン PR TEL. 03-6662-5525) その他はスタイリスト私物

    写真・内田絋倫(The VOICE) スタイリスト・ダヨシ ヘア&メイク・山下菜月 取材、文・米虫紀子

    anan 2464号(2025年9月24日発売)より
    Check!

    No.2464掲載

    応援の流儀

    2025年09月24日発売

    目標に向かい頑張る人たちを見守ることで、心が躍り、パワーをもらえる。今号のananは「応援」を切り口に、スポーツやエンタメなど様々なジャンルの方々に登場いただき、応援する側、される側の心理をインタビューを通して考察するほか、最新の推し活アイテムなども取り上げます。

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