
片島麦子『ギプス』
自己評価が高まらずに悩んでいる人にぜひ贈りたい物語がある。片島麦子さんの『ギプス』だ。
疎遠になった友人を捜すうち、見えてきた大切なこととは
「誰かが誰かを探す物語を書こうと思って。そこに、昔から書きたかった少女同士の友情を絡めました」
と片島さん。ブックカフェで働く間宮朔子は、自分は誰からも期待されていないと諦念を抱く27歳。ある日、彼女は葛原鳴海という女性から、妹のあさひを捜してほしいと頼まれる。あさひは朔子の中学時代の友人だが、苦い出来事を機に疎遠になった相手だ。二人の間にいったいなにがあったのか――。
「思春期の友情って、自分も丸ごと差しだすから相手にも差しだしてほしいという、恋人同士のような感覚もある。でも恋人とは違い、別れ話をすることもなく疎遠になったりする。それでモヤモヤが残っているのが、現在の朔子の状態なんです」
物語はあさひを捜す朔子の現在パートと、二人の少女時代の物語が並行して進んでいく。現在パートの朔子は強引な鳴海に戸惑いつつも、消えたあさひを捜すため、中学の同級生に会うなど行動を起こす。一方、職場では朔子を「若い女の子」扱いする店長に不快な思いをさせられることも。そんな人間関係に揉まれつつ、朔子は自分の過去と現在を見つめ直していく。
「これは朔子があさひを捜す話ではあるけれど、彼女が自分自身を探していく話にもなっていますね」
後半にはあさひ側の事情も明かされ、これが切ない。朔子、あさひ、そして鳴海も、心にギプスをはめて自分を閉じ込めてきたかのよう。
「自分が囚われていたものを壊していく話をイメージしていたので、最初からタイトルは頭にありました」
少女時代、強くなりたがっていたあさひと、二人なら強くなれると思っていた朔子。彼女たちは望む強さを得ることができるのか。
「自分は弱いと感じているからこそ、強くなりたいと思うんですよね。その弱さを認めたうえで、人との関係性の中で自分を作っていくことが、本当の意味での強さの獲得になるのかなと思います。そして一人一人が強くなれば、友達に対しても、自分の丸ごとを差しださなくても向き合えるようになると思います」
終盤には胸熱の景色が待ち受けている。あなたの心の中のギプスも、きっとゆるまるはず。
Profile

片島麦子
かたしま・むぎこ 広島県生まれ。2013年、『中指の魔法』で作家デビュー。他の著作に『銀杏アパート』『想いであずかり処 にじや質店』『レースの村』『未知生さん』などがある。撮影:冨永智子
Information
『ギプス』
自信がなく、人に抗わずに慎重に生きている朔子。絶縁した友人を捜すことになり、行動を起こすうちに彼女の心に生まれた変化とは。KADOKAWA 1980円
anan 2463号(2025年9月17日発売)より