劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座(あかざ)再来の主題歌「残酷な夜に輝け」を担当するLiSAさんに、楽曲と作品について伺いました。


LiSA「彼らを讃え、力に変える歌でありたい」

LiSAさんが歌う、物語を包み込むような本作の主題歌「残酷な夜に輝け」。その荘厳な音色は切なく優しく、戦うキャラクターたちを慰めるような雰囲気で流れ出す。

「以前、劇場版『無限列車編』で、主題歌『炎』を歌わせていただき、そこで描かれたのが、煉獄さん(煉獄杏寿郎/れんごく・きょうじゅろう)と猗窩座の戦いでした。煉獄さんを倒した猗窩座が再び戻ってくる今作でまたご一緒させていただけて、本当に光栄です」

6年前、「紅蓮華」の歌とともに幕を開けたこのアニメーション。最終局面である『無限城(むげんじょう)編』で再びLiSAさんの歌声が響く。作品で「残酷な夜に輝け」が流れると、竈門炭治郎(かまど・たんじろう)たちの長い戦いや無限城にたどり着くまでの葛藤が蘇る、そんな気持ちになるから不思議だ。

「今回は、長尺の楽曲になるということも聞いていました。楽曲が流れる際、どんな曲調、雰囲気で迎えるかが、私にとっては結構大きな課題で。最初、梶浦(かじうら/由記)さんは、悲しみを悲しみのまま描く雰囲気の曲を作ってくださったんですが、それを聴いて私は、もう少しみんなを讃(たた)えながら、共に前に進んでいく、そんな役割になれると嬉しい、と作業途中にお邪魔してお伝えしたんです。その後、サビの部分を作り替えてくださった楽曲が届き、今の曲になりました」

合唱曲のようなコーラスと、ずっしりと存在感のあるストリングスに重なる、真っすぐなLiSAさんの声とメロディ。作品とともに主題歌が流れる映画館では、その上映を身じろぎせずに見つめ、聴き、涙を浮かべている人が多くいた。

「鬼や鬼殺隊(きさつたい)には、悲しみを背負っている人が多くいて、それを理由に、鬼になるのか、鬼殺隊になるのかの選択を迫られてきたキャラクターも多いと思うんです。みんなが持たされた悲しみに寄り添うことができたらいいな、と思ったんです。決戦に臨む彼らに、さらに前に進む力を持ってもらいたい。戦う人を讃え、同時にみんなの気持ちを連れていける、そんな楽曲になることを思って、歌いました」

長尺の大曲。レコーディングは大変だったのでは、と聞くと、

「梶浦さんが最初に作ってくださったワンコーラスのメロディがあり、その他の部分はそのメロディに戻るためのフレーズだという認識が持てたので、乗せてくださった歌詞を表現することに徹して歌えました。レコーディングのときも一切迷いはありませんでした」

歌いながら、頭の中には物語や、キャラクターたちのことをたくさん思い浮かべていたのだそう。

「例えば、“白く凍えた”から“匂い立つ”のオペラっぽいところに行くまでは、炭治郎たち的に言うと、戦う自分たちの声でどれだけ歌えるか、みたいなことを考えましたし、また静かになってからのパートの〈夢見ていたんだ 君が〉からのパートは、すべてを抱きしめるような気持ちで歌いました。自分が参加させていただくどの作品でも、歌が流れると、“大丈夫かな…?”って一回ちょっと冷静になるんです。今回ももちろんそうなりましたが、それよりも、物語と、梶浦さんが書いた歌詞の相関性に感動して、特に〈夢見ていたんだ 君が〉の後は、泣きながら“梶浦さん、すごい…”と感動していました(笑)」

タイパだコスパだといわれる現代、多くのものがコンパクトで軽くなっていくなかで、こういった、壮大な展開が存在する楽曲が作られ、かつ多くの人に届いていることも素晴らしい。

「こんなに一曲の中でいろんな感情を表現できる楽曲って、そうなかなかないし、それは長いからこそかもしれません。なのでぜひ皆さん、歌ってみてください、めちゃめちゃ楽しい曲ですよ! まあ楽しいと言っちゃうと、楽曲の内容とちょっと温度差がありますが(笑)。歌う人には、ぜひそこを楽しんでもらいたいですし、聴く方には、そんな振れ幅のある展開を聴いてほしいですね。私は早くライブで歌いたいです(笑)」

5年前、『無限列車編』の特集でお会いした際、余談で「猗窩座が好き」と言っていた記憶がある、と伝えると、

「え、そう言ってましたか?! もともと煉獄さんが大好きなので、彼を倒した猗窩座が好きだなんて、言ってはいけない…と思っていたはずなんですが…。煉獄さん推しの私からすると、仇である相手だからこそ今まで大きな声で推しだとは言えませんでしたけれど、今作で、改めて、鬼だからといって憎みきれないという部分を感じてしまって。でもそこがこの作品の最大の魅力の一つですよね。一人一人の物語を知れば知るほど、どのキャラクターにも感情移入してしまう…。とはいえ、やはり『無限列車編』で関わらせてもらった私としては、猗窩座の再来を観てほしいですね。猗窩座を見つけたときに、炭治郎が叫ぶ、あの瞬間が本当に最高なので」

全身全霊で曲と向き合い、すべてを注ぎ込むように歌うLiSAさん。歌っているときがオンだとすると、オフ、すなわち素(す)に戻る瞬間はあるのだろうか?

「ピラティスをしているときかもしれません。4年ほど前に、呼吸を整えるのにいいと聞いて始めたんです。以来、週に2回程度のペースで続けています。ピラティスをしているときは、自分の体としっかり向き合う時間。鍛えるというよりは、体を整えて素に戻す、みたいな感じですね。めちゃめちゃ楽に歌えるようになりましたし、体も変わった気がします」

Profile

LiSA

リサ ミュージシャン。『鬼滅の刃』は、テレビアニメ『竈門炭治郎 立志編』、劇場版『無限列車編』、テレビアニメ『無限列車編』の主題歌を担当。9月より全国ホールツアーがスタートし、来年1月まで続く予定。

Information

「残酷な夜に輝け」

Blu-rayとセットになった期間生産限定盤¥1,760 ほかに通常盤CD ¥1,430も(ソニーミュージック)

劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来

日本で公開された映画史上最速で100億円を突破。原作/吾峠呼世晴(集英社ジャンプコミックス刊) 監督/外崎春雄 キャラクターデザイン・総作画監督/松島 晃 脚本制作/ufotable サブキャラクターデザイン/佐藤美幸・梶山庸子・菊池美花 プロップデザイン/小山将治 美術監督/衛藤功二 撮影監督・フィニッシング演出監督/寺尾優一 3D監督/西脇一樹 色彩設計/大前祐子 編集/神野 学 総監督/近藤 光 アニメーション制作/ufotable 配給/東宝・アニプレックス

取材、文・河野友紀 Ⓒ吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

anan 2462号(2025年9月10日発売)より
Check!

No.2462掲載

素を磨く 2025

2025年09月10日発売

SNSでの映えや盛りの応酬に疲れ、等身大の自分に回帰しつつある今、表面や小手先ではなく、基本と本質に立ち返る「素を磨く 2025」特集。AIに負けないこれからのスキルや、爪や歯といった先端を整えるパーツケア、QuizKnockと学ぶ数学的思考、達人に聞く最新の語学マスターメソッドなど、各種の素を磨くメソッド=素活をご紹介。

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