
大前粟生『7人の7年の恋とガチャ』
大前粟生さんによる『7人の7年の恋とガチャ』をご紹介します。
恋愛リアリティショーの裏側で交錯する7人の期待と本音と計算
「何かモヤモヤすることがあると、それを分析しようとして言葉が生まれるので、小説に書くんです」
と大前粟生さん。新作『7人の7年の恋とガチャ』は、恋愛リアリティショーが舞台のエンタメ作品。今作の発端となったモヤモヤとは、
「特に学生時代、自分のキャラや役割をまっとうできるかが死活問題になることにモヤモヤしていました。その疑問をエンタメで描く素材として、恋愛リアリティショーがあるなと思って。ああいう番組ってフィクションなのに事実だと受け取る人がたくさんいるし、番組側もそう打ち出している。小説というフィクションを書いている者からすると、かなりモヤモヤします」
小さな離島に集まったのは、恋愛リアリティショー「恋ガチャ」の出演者7人。演者たちが順に視点人物となり、現場での行動や本音、裏の事情が吐露されていく。
「こういう番組の演者は、恋だけでなくいろんな目的を持って出演しているし、番組内で役割や個性を背負わされている。視聴者はそれを知らないから、画面に映るものだけで判断される怖さがある。その怖さがミステリーっぽさとマッチしました」
というように、本作はミステリーでもある。放送後、番組関係者の誰かがSNSに投稿した画像が炎上。7年後、再び島に集められた7人で「恋ガチャ」が再開されるが、そこでは「裏切り者を探せ」というミッションも課せられる。
「初回と7年後の2パターン出すことで、彼らが読んでしまう空気にバリエーションを出しました。2回目は演者も自分の見え方を俯瞰できるようになっていて、その分、何が本当で何が演技なのか、演者ですら分からない状況になっていく」
視聴者に見られると計算しながら、彼らはどんな行動をとるのか。7年前、7年後の違いが面白い。だが、彼らの状況は特殊ではない。
「今回は島という密室状態を書きましたが、SNS等でみんながみんなの動向を気にしている今の社会も、密室っぽくて出口がない気がします。よくも悪くも有名になればそれでいい、という風潮もあるけれど、こんな世の中で有名になってどうするの、という虚しさもある。それを反映させています」
終盤には驚きの事実も発覚。なんとも不穏な番組、ぜひご覧あれ。
Profile

大前粟生
おおまえ・あお 2016年「彼女をバスタブにいれて燃やす」が「GRANTA JAPAN with 早稲田文学」の公募プロジェクトで最優秀賞に。著作に『物語じゃないただの傷』等。
Information
『7人の7年の恋とガチャ』
16歳から22歳の男女7人が孤島で繰り広げた恋愛リアリティショー。7年後、再び集められた彼らは、思わぬ事実を知ることに…。幻冬舎 1870円
anan2459号(2025年8月20日発売)より