複数の相手とオープンに関係を持つ男女、いわゆるポリアモリーの人たちがマジョリティで、ひとりの相手を好きになる人がマイノリティ。そんな逆転とも思える世界を描き話題を呼んだコミック『もしも世界に「レンアイ」がなかったら』(DPNブックス)が待望のドラマ化。恋愛し、一対一の関係を望むマイノリティ、通称「レンアイ」の主人公・乙葉を演じる島崎遥香さんと原作者のヤチナツさんが語り合う、作品への思い。そして恋愛とは、普通とは何か。

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    マジョリティを逆転させた世界

    ── まず、ヤチナツさんがこれを描かれた背景にはどのような思いやきっかけがあったのでしょうか。

    ヤチナツ 2021年、当時「AM」というウェブサイトで連載することが決まったときに考えついたテーマがこれだった、という感じです。私自身は男の人も恋愛も大好きなマジョリティですが(笑)、なぜかゲイの方や恋愛に興味が持てないというポリアモリーの方などいわゆるマイノリティの方からお便りをいただくことが多くて、そういう作品を期待されているような気がしていたんです、なんとなく。そこで多数派かつノンケの私がマイノリティを描くとしたら、どんな形がいいかを考えた末「その立場を逆転させてみたらどうだろう?」と思いついて。そこで描いたのがこの作品でした。

    島崎遥香(以下島崎) そうだったんですね。私は原作とドラマ版はまたちょっと違う印象があるんですよね。原作はどこかポップだけど、ドラマはしっとり系で、私が演じる乙葉も「レンアイ」であることを真剣に悩んでいるんです。だから演じることが決まってからは、私自身、世界を見る目をこのドラマに合わせて変えてみました。例えば街中でカップルを見たら「え、恋愛してるの?」ってちょっと嫌悪感を抱いてみたり(笑)。

    ヤチナツ わ、そこまで役作りしてくださってありがたいです! ほんとちょっと見方を変えると、世界は変わる。だから私はどういう作品でも何が普通とか変わってるとか、どっちが正しいとかいう描き方をしないようにしています。あらゆる人をジャッジしない。

    島崎遥香さん

    島崎 なるほど。でもこれって斬新な世界観に見えるかもしれないけど、恋愛以外のことに置き換えてみれば誰でも共感できる部分がありそうですよね。恋愛に限らず、自分の気持ちを抑えて生きてる人っていっぱいいると思う。私も周りとペースが合わないなって思うこと、いっぱいありますし(笑)。

    ヤチナツ そういうことも言えるかもしれないですね。ただ私の場合、何でも言える家族関係で育ってきたこともあってあんまり人と違うことをなんとも思わないタイプなんで、自分自身には人と比べる葛藤や生きづらさがない(笑)。よくこういうの書いたなと自分でも思いますけど。島崎さんはそういうペースが合わないことで生きづらさを感じる部分はありましたか?

    島崎 私の場合、集団行動がとにかく苦手なんですよ…! もともとグループに所属するアイドルだったのにと言われますが、その環境を生きづらいというか「これは私を強くするための訓練の場だ!」と思っていましたね。今回の台本も読んでいる中で、また撮影中も各話ごとに一回はぐっとくる場面があって。これまで経験した感情をのせてお芝居できたのはよかったです。特にシェアハウスに住んでいるという設定もグループに通じるところはあったかも(笑)。

    ヤチナツ 私もドラマ版を見せていただいたとき「わあ、なんかシェアハウスにいるときの乙葉、めちゃがんばってるなあ…」って、ちょっと何か乙葉に対して作者として申し訳ない気持ちになってしまいました(笑)。

    ── 多数派か少数派かだけでなく不倫や浮気など、恋愛やセクシュアリティは個人的な事柄のはずなのに、世間の規範をはみ出すとされがち。そんな現代の不可思議さもこの作品には描かれているような気がします。

    ヤチナツ 確かにそうかもしれないですね…って、いま気づきました! 確かに私自身、浮気とか不倫とか、複数の人と恋愛することを無条件で「だめなことですよ」って犯罪っぽく切り捨てる風潮にすごく違和感があるんですよね…。一人を想い続ける人もいれば、息をするように自然にたくさんの人を好きになっちゃう人だっているはず。バッシングする側の人も、単に現状のルールが自分の恋愛スタイルに合ってるってだけの話だと思うんですよ。だから「そんな冷たいこと言わないでよ~」ってさみしくなっちゃう。

    島崎 そうですね…。確かに結婚は一つの契約だけど、そのときどきに心が動いた人と関係を築くのは生き物として自然なことなのかなと思います。恋愛に限らず、人の気持ちは1秒ごとに変わるものだと思うんですよ。変わらないって、反対にちょっと機械っぽい感じもしちゃいます、私は。

    ヤチナツさん

    それぞれの人との距離感

    ── また作品中ではシェアハウスで共に暮らし、子育てまでシェアするポリアモリーの人たちの「だってつながってないと怖いじゃない?」というセリフが出てきます。現実世界と逆転した設定の中で、そこだけは現代の価値観とも通ずる。そのねじれがとても印象的でした。

    ヤチナツ あ、私もそこすごくいいこと言ってるなと思いました!(笑)なんていうか、理にかなってる。フラットな目で見れば、子供だってコミュニティでつながって育てたほうが絶対合理的だと思うんですよね。「恋愛=一対一」であろうとすることで密閉感が、その後の家族関係、子育てにも通じていくのかもしれませんね。…ところで島崎さんは「つながりたい!」って思うことありますか?

    島崎 いえいえ、そこは切り捨てて生きてます!(笑)私自身、全っ然恋愛体質じゃないし、ひとりでいるの大好きだし。だから乙葉が告白するシーンとか、好きすぎて涙が出ちゃうとか、そういう感情がなかなか理解できなくて。

    ヤチナツ えっ! 「ひとりでさみしー!」とかいう時はないんですか⁉︎

    島崎 ないんですよねえ…(笑)。生まれつきそういう気質なんでしょうね。18歳で一人暮らしを始めたときは「やっとひとりになれる…!」って嬉しくて。たぶん一生恋愛しなくても大丈夫だと思います。

    ヤチナツ そうなんですね…! でももし島崎さんとご縁の合った相手が「24時間一緒にいないとだめー!」みたいなタイプだったら…どうします?

    島崎 それはもう、好きなら受け入れると思います。昔、秋元康さんに言われたんですよ、「恋愛はどれだけ相手の嫌な部分を好きになれるかだ」って。それが今もすごく頭に残っているから。嫌な部分も好きになっちゃうくらい好きってすごいことですよね。「好きになれるか」というのもそうだけど、それ以上に好きって「なっちゃうもの」だと思うんですよ。

    ヤチナツ 恋愛の初期症状、「好きになったらどんな部分もかわいい現象」ですね…! ただ私はその点、境界線を引いているほうです。「あっ、そこまでされると好きではいられないかも」って思うと、さっと引いて、好きでいられる距離感をキープするというか…。どれだけ好きで親しい相手でも、私がコントロールしたり変えられるものではない、だから距離を取るという方法で解決する。島崎さんはずっとアイドルとして活動されてきましたが、人との距離感ってどう考えていますか?

    島崎 うーん…実は私は合うか合わないかは直感で、それこそ数秒で判断しちゃうんです。ちょっとそこは今後変えていきたいところなんですけど(笑)。でもアイドル時代は大所帯だったし、握手会にもいろんなタイプの方が来てくださるので、もうどんな人が来ても驚かない(笑)。「世の中にはいろんな人がいる」ということを15歳から身に染みて経験してきましたから。だから今作の登場人物のあり方にも驚くことはなかったけど、乙葉という人物だけは、掘り下げるほどに苦手意識が強くなってきて…。なんでだろうと考えてみたら「あ、自分に似てるからだ」と気づいたんです。

    ヤチナツ 私はシンプルにおとなしくてかわいいなーと思って観てましたけど(笑)そんな思いがあったんですね。でも確かに私の漫画の中では一番おとなしい女子なんですよ。それがどんどん行動して自分を出せるようになっていく、という物語。

    島崎さんが演じる乙葉(右から2番目)。乙葉と同じく“レンアイ”でありながら、様々な考え方のキャラクターを、ISSEIさん、福田沙紀さん、渋谷謙人さんが演じる。 ©『もしも世界に「レンアイ」がなかったら』製作委員会

    島崎 そういえば私この台本の最後のページに書いたんですよ。「自分の居場所を見つけたい」って(と、読み込んだ台本のページをめくる)。これが私の考えた乙葉のテーマ。乙葉は、居場所を探し続けている。きっとたぶん誰とも続かずに、職も住まいも変えながら転々として生きていくんじゃないかなと思いながら演じていました。

    ヤチナツ すばらしい解釈…! 原作とドラマ版は結末も違うので、観る方にはその違いも楽しんでもらえたらと思います。私はキャラクターの成長とともに環境も変えていったほうがいいかなと思って描いていただけですが、島崎さんが演じる乙葉は内向的な中にも芯がある。か弱く見えてタフなキャラクターだったんだなとあらためて思いました。

    ── 恋愛スタイルの話だけで終わらず、生き方にもつながっていく物語。おふたりはどんなふうにこの作品を楽しんでほしいですか。

    ヤチナツ けっこう突飛な設定なのでぎょっとする部分もあるかもしれませんが、そこを超えて観続けていただくと意外な発見があるかも。なんとか離脱せずにラストまで楽しんでいただければ、何かしら得るものがあると思います!

    島崎 私はこの役を演じると決まってから、「マイノリティとは何か」「セクシュアリティとは何か」を日々自分自身に問いかけてきました。その先で行き着いた答えは「どんな人であれ、自分の気持ちは誰にも否定される必要がない」ということ。言葉にすると軽くなっちゃいますけど…みなさん自分だけは、自分のことを信じて好きでいてほしい。それが乙葉を演じた私が伝えたいこと。そして、観てくださった方にとって、この作品を他人の価値観を受け入れる勇気を持つきっかけになったらうれしいです。

    ふたりがハマる、いま好きなこと

    ── 最後におふたりの、いま好きなことを教えてください。

    ヤチナツ 個人的に、いま自分の中ですごい「RIP SLYME」がきています…! でも、RIP SLYMEがテレビにすごくよく出ていた時代って私は小学校高学年から中学生くらいの時期で、あんまり魅力がよくわかっていなかったんですよ。「ちょっと怖いお兄さん」みたいな感じで(笑)。再結成してあらためて音楽に触れたら「え、こんなに素敵だったんだ!」みたいに一気に惹かれて。思春期に通ってこれなかったことを悔やみ、取り戻すかのように今めちゃくちゃハマってます。

    島崎 きっかけはなんだったんですか?

    ヤチナツ Mステで観たことです。かなり普通のハマり方をしています(笑)。島崎さんは何かありますか?

    島崎 私は今めちゃくちゃスコーンにハマってます。まだ歴は浅いのでツウとかではないんですけど、しっとりより、サクサク食感のものが好きで、家でもずっと食べています! フレーバーは王道のアールグレイで、そこにクロテッドクリームをたっぷりつけて食べるのが好き。

    ヤチナツ なるほどー。朝食がわりとかおやつとかですか?

    島崎 実は夜ごはんにすることが一番多いです。カロリーとかギルティとかそういうことは一切気にしない!(笑)

    Profile

    島崎遥香

    しまざき・はるか 1994年3月30日生まれ、埼玉県出身。2009年、AKBオーディションに合格し、愛称「ぱるる」として人気メンバーに。2016年末グループを卒業してからは俳優として活動中。ドラマ『ハレ婚。』やドラマ&映画『ゆとりですがなにか』などにも出演。

    ヤチナツ

    漫画家。女子を中心として現代に生きる人たちのリアルな生態を描いた作品が次々に話題を読んでいる。代表作にアラサーの本音満載の女子会模様を描いた『20時過ぎの報告会』(KADOKAWA)ほか。女性用風俗を描いた『真・女性に風俗って必要ですか?』をくらげバンチで連載中。

    Information

    もしも世界に「レンアイ」がなかったら

    恋愛感情を持たず、自由も束縛もない男女関係が当たり前の世界。だけどそこには恋愛感情を持つ「レンアイ」と呼ばれるマイノリティもいて、主人公の乙葉もその一人だった。話題のコミック“もしレン”、待望のドラマ化! 出演:島崎遥香、ISSEI他。7月31日(木)からCBCテレビで毎週木曜深夜0時58分~。

    写真・鳥羽田幹太 スタイリスト・黒瀬結以(島崎さん) ヘア&メイク・信沢 Hitoshi(島崎さん) インタビュー、文・大澤千穂

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    会社あるいは地域や社会全体のために働くというテーマがある日です。そして、そうした働きを通じて自分自身も得るものがあることを示しています。たいてい、人は「苦労した以上は報われたい」と願いますから、頑張った分が還元されるとやはり嬉しくなるものです。働いた後は親しい人たちとゆっくりねぎらい合いましょう。

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