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雨穴さんは本当にいた!
黒いボディに白い仮面をつけた姿が、見る者に強烈なインパクトを与える雨穴さん。これまで、ウェブサイト「オモコロ」の記事やYouTubeなどで画面越しに姿を見ることはあったが、公の場に現れるのは今回が初めて。また、場所が日本外国特派員協会ということもあり、一体どんな会見になるのだろうかと期待が高まる。国内外のさまざまなメディアで席が埋まる中、扉が開き、ついに雨穴さんが登場…! 会場に少しの高揚感と緊張感が走る。雨穴さんは本当にいた。
まずはフォトセッションからスタート。途中、カメラマンたちからのリクエストに応え、両腕を直角に曲げたりとさまざまなポーズを決める場面も。着席すると、雨穴さんのスピーチが始まった。
「Nice to meet you. My name is Uketsu. Thank you very much for your coming.」
そう、この日の会見の大部分は英語で行われた。お馴染みの高い声でゆっくりと懸命に英語を話す雨穴さんからは、不気味さや異様な雰囲気だけでなく、誠実さやチャーミングさも感じられる。
大変な今の時代、良い物語を書いて若い人や子どもに楽しんでもらいたい
まずは自己紹介から始まり、作家やYouTuber、うさぎのイラストを描いていることなど、フリップを使って丁寧に説明していく。その後、なぜ自身の本が、読書離れが進んでいるともいえる日本の若者に多く読まれているかということについて、3つの見解を話した。
1つ目は、図をふんだんに使い読みやすいからだということ。2つ目はYouTubeの存在で、自ら本の宣伝をし、面白さを伝えるためにあらゆる技術を駆使していることが大きな要因だという。そして3つ目として挙げたのは、近年の日本に若者の間で巻き起こるホラーブームだ。
伝統的なスタイルではなく、静かで不気味な、不安な気持ちにさせる物語を好む日本人が多いこと。その理由が、日本も含めて悲しいことが多い大変な今の時代、若い人や子どもが不安な空気を感じ取り、対処するために不安な物語に目を向けているのかもしれないこと。それはとても悲しいことであり、だからこそ、良い物語を書いて楽しんでもらいたいと話した雨穴さん。そして、『変な絵』が世界中の30の国と地域で出版されることに触れ、「世界中の人々が、『変な絵』をはじめとして、私の物語を楽しんでくれることを願っています」と希望を語った。
遊園地のお化け屋敷を作るのが夢
スピーチの後は質疑応答へ。この時間は通訳が入り、回答は日本語で行われた。紙で読む作品を手がけるにあたっての工夫については、ページを行ったり来たりすることなく、図と関連する文章が見られる仕組みになっていると回答。実際に本の中を見せながら、熱弁をふるう姿が印象に残る。
また、「なぜそのような格好なのか」「作品よりも見た目に注目が集まるのでは?」など見た目についての質問も。「仮面を脱ぐと実は国民的大スターだということはない」「おそらく犯罪者でもないと思います」と答えた時は、会場に笑いがあふれた。また、見た目と本の内容の乖離については、自身も真面目な格好をしたほうがいいのかなど気にしていた時期があったと明かしつつ、子どもがコスプレをしたり、絵を描いてくれたりしていることを挙げ、「第一印象は怖いかもしれませんが、慣れると親しみを持ってもらえるのではないでしょうか」と答えた。
さらに、緊張して答えが固くなってしまったと告げ、「ちょっと自分のビジュアルに合わせて一応踊っておきます」と、奇妙なダンスを披露。「体幹だけが強いんですけど…」と遠慮がちに話す姿に好感があふれる。また、最後の質問として挑戦してみたいことを尋ねられると、「いつか、遊園地のお化け屋敷を作ってみたいと思っています」と答えた雨穴さん。ぜひ実現してほしい、と思う人も多いのではないだろうか。
こうして約1時間に及ぶ記者会見が終了。途中、『ちいかわ』『横山秀夫』『オモコロの夢顎(んく)さん』などのワードが飛び出すなど、『変な絵』が世界で発売されることについてはもちろん、雨穴さんの人柄やパーソナリティ、普段触れているものが垣間見えるような瞬間もある、貴重な時間だったように思う。一方で、拍手で見送られ会見場を後にする雨穴さんの背中を見ていると、一体この記者会見はなんだったんだろう、何か騙されているのではないか? 壮大な企画に巻き込まれているのではないか? という疑いの気持ちが湧いてきたのも事実。
まじめでありながら、何か"変な"記者会見でもあった。
*記者会見のライブ配信は、YouTubeでアーカイブを見ることができるので、ぜひ、動画でもご覧ください!
PROFILE プロフィール
雨穴(うけつ)
ウェブライター、ホラー作家、YouTuber。2018 年、ウェブサイト「オモコロ」にてウェブライターとしての活動を開始。同時に、YouTuber としての活動も始める。YouTube では、ホラー・ミステリー動画の他、自作曲を歌い踊る音楽動画を複数投稿。チャンネル登録者数は 170 万人を超え、総再生回数も 1 億 9000 万回を突破。2021 年には、YouTube に投稿した動画『【不動産ミステリー】変な家』を書籍化した小説『変な家』で作家デビュー。『変な家』は 2024 年に映画化され、興行収入 50.5 億円の大ヒットを記録した。自身2作目となる『変な絵』はコミック化、文庫化され、世界的なミリオンセラー作品になっている。