複雑な事情を抱えた若い三兄弟の濃い絆を描いたデビュー作『つぎはぐ、さんかく』で話題をさらった菰野江名さん。本書『さいわい住むと人のいう』では、地域ではちょっと名の知られた香坂家の老姉妹を主役に据えた。80歳の桐子は元教師で顔が広く、世話役のような存在。年の近い温和な妹・百合子と、豪邸でふたり暮らしをしている設定だ。


生き方の違う姉妹が掴んだ幸せの形。読後、幸せについて考えたくなる。

「桐子が2024年で80歳だとすると、生まれたのはちょうど終戦のころだ、20歳になるころには東京オリンピックがある、というように節目が日本の戦後史と噛み合っていたので、これと絡めて彼女たちの人生をたどったら面白そうだと思いつき、プロットを書き始めました。姉妹が同じ家でほぼ同時刻に亡くなった2024年から始め、20年ごとに時間を遡って彼女たちの過去を明かしていく構成になっています」

姉妹が「自分たちの家」に固執するのには理由がある。

「未成年の彼女たちが長く身を寄せていた吉沢家の振る舞いは一概に批判できないというか、実際、姉妹にとって救済でもあったので。それでも女性がこれだけ生きにくい時代があったということを、読者に我がこととして受け入れてもらいたい気持ちで書きました。同時に『そういう時代だから』で括るあきらめが、現代でも人々の中に薄く流れているような気がするので、桐子や百合子の強さに触れて、その感覚を少しでも払拭できればと思うんです」

物語の根底にあるのは、幸福をめぐる問いかけだ。

「『人の幸せは人それぞれ』だと思っていても、いまの暮らしに満足していても、誰かをうらやましくなったり批判的な目で見てしまったりはあります。価値観が揺らぎやすいのを自覚しているので『幸せは自分が決める』という強い意志を持った主人公たちを通じて、読者にこのメッセージを発したような気がします」

書いていて思いがけず楽しかったのは、桐子のロマンス。大変だったのは豪邸の描写だったとか。

「恋愛の要素を作中で匂わせて、読者の反応を考えるのが楽しいです」

老若男女問わず沁みる感動作だ。

「小説の人物の生きざまに胸を掴まれる瞬間を、私自身何度も経験してきました。桐子と百合子の『幸せになりたい』というまっすぐな思いがみなさまの胸にも届けば幸甚です」

Information

『さいわい住むと人のいう』

外見も生き方も似ていないが、自己献身的な優しさはそっくりの桐子と百合子。姉妹に助けられた母と息子のサイドストーリーも感動的。ポプラ社 1870円

Profile

菰野江名

こもの・えな 作家。1993年生まれ、三重県出身、東京都在住。「つぎはぐ、さんかく」(「つぎはぐ△」より改題)で第11回ポプラ社小説新人賞を受賞し、デビュー。同作はポプラ社より好評発売中。
朝日新聞社/好書好日

写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2422号(2024年11月13日発売)より

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