怒りや苛立ちを隠せず、自分の欲望に素直なバンドマンが好き。
バンドマンから放たれる、アンニュイな色気。クリープハイプのフロントマンである尾崎世界観さんが魅了されるバンドマンには、“照れ”があるという。
「自分が色気を感じるのは、ちゃんと照れている人。人前に立って、自分が作ったものを表現するというのは、やっぱり恥ずかしいことなんです。学生時代に初めて曲を作って歌った時からそうで、恥ずかしいからこそ人に見せる価値があると思ったし、年々、その考えは強まってきています。逆に、自信に満ち溢れた人には色気を感じません。あと、ステージで芝居がかった振る舞いをする人にも惹かれないですね」
キャリアを積んで人気が出れば自信がつく。自信と反比例するように、バンドマンの色気のコアにある“照れ”が薄れてきてしまう。そのことに尾崎さんは自覚的だ。
「だんだんと、否定的なことを言ってくれる人がいなくなる。だから、常に自分自身にネガティブな視線を向けるように意識しています。それには意外とエゴサーチがいいんです。腹も立ちますけど(笑)、“確かにな”と思うことが一つでもあれば、こちらにとっては得しかない。損得関係なく文句を言ってくれる存在は、いま周りにはなかなかいないので、一つの意見として受け止めています」
SNSで書かれていることが多数派のように聞こえてしまう時代にあって、色気の在り方にも変化が起きているよう。
「バンドも、ファンの声や反応に過剰に引っ張られているところがありますよね。ファンの見方がより高度に、評論家っぽくなってきている。だから、もしかしたら“色気”というのも、各媒体やSNSで言語化されすぎて、感じる前に消えてしまっている可能性もありますよね。自分が名乗っている“世界観”は、説明しがたいものをとりあえずそういうものにしておくための言葉という印象ですが、“色気”だって、もうちょっと言葉にならない、伝わり切らない感情だったはずです」
詞に限らず、エッセイや小説も書く尾崎さん。言葉の使い手として色気は意識しているのだろうか。
「発する側としては、何でも好きに言うわけにいかない状況で、どう伝えようか考えるのもゾクゾクしますね。バンドにとって、大前提として、作品は自分を演出するためのものではなくて。もし自分から色気が出てるのだとしたら、歌っているうちに、自分自身さえも知らずにいたそういう要素が奥のほうから出てくる、そんな流れが理想ですね。歌詞は、わかりやすくエロいことを書くとコミカルになってしまうので、そこにすごく気を遣っています。もちろんわかりやすいエロに色気を感じる人もいるので、その辺りの線引きが難しいんですけどね。文章を書いている時は、その姿を誰かに見られるわけではないので、色っぽくある必要もない。それなのに、読むとそこに表現したいすべてが詰まっていて、かつ色気が感じられる、そんな文章に憧れます」
バンドマンとオーディエンスとの、目には見えないコミュニケーションの上に成り立っているライブ。毎回、湧き出る感情が違うのも生ものの醍醐味だが、うまくいかないと感じた時のほうが、観客の満足度が上がることがあるそう。
「ライブって、お互いに空気を窺っている感じがあって、それがぴったり合う日もあれば、合わない日もあるんです。合わないと“なんでこんなに早く拍手がくるんだろう、もうちょっと待ってくれてもいいのに”などと、ちょっと気が立ってくる。でも何かしらの隙が自分にあるからそうなっているはずだし、そんな自分にイライラしてくるんですけど、そうしたイライラや怒りによってお客さんの感情を動かすのも大事で。もしかしたら、それが色気に通じるのかもしれません。それだからか、“もっとできたのに”と自分自身が納得できていない日にお客さんからよかったと言われることもある。怒りというのは、普段の生活ではよくない感情ですが、バンドのライブでは爆音がすべてを呑み込んでくれる。自分自身、ロックバンドのライブでただハッピーになりたいわけではないんです。幸せだとか、満たされた開放的な表現をそこまで求めていないし、それをわざわざお金を払ってまで観ようとは思いません」
自分自身に向けられる怒り、満たされない苛立ち。エモーショナルな姿が露わになった時、観客はバンドマンに色気を感じ、恍惚とするのだろう。その瞬間が起こるのがステージというマジカルな場所。フェスでは時間帯によって色気の感じやすさが変わるよう。
「昼と夜とでは、音の伝わり方が全然違うんですよね。明るい時間帯よりも、暗い時間帯のほうが、音が奥のほうまで響いていくんです。そして、暗い中ではっきり浮かび上がってくるものといえば、ライトを浴びてステージに立つバンドマン。視覚と聴覚を集中させる分、色気を感じやすくなるのかもしれません」
OZAKI’S CHOICE
年代別・色気を醸すバンドマン
尾崎さんが年代別に選んでくれた、色気を感じるバンドマンたち。
「夢を叶えてプロになり、ステージに立ち続けていても、まだまだ理想には追いつかない。それでも“よかった”と言われる苦しさ、理解してもらえない自分自身への怒り。お客さんを喜ばせるプロとしては、出してはいけないのかもしれないけど、そうした感情を隠せず自分の欲望に素直なバンドマンが好きです。自分がそういう人間だから、そういう人を見たり、音楽を聴いたりして、安心しているだけなのかもしれませんが。この中でも忌野清志郎さんには不思議な魅力を感じます。人間味があるのに、神様のようでもあって。怒りや悲しみのさらに奥にある、もっと深い感情を吐き出しているように感じます」
1960’s Bill Evans
クラシックを音楽的ルーツに持つ、アメリカのモダンジャズ・ピアニスト。1960年代には、ベースとドラムと共に演奏するピアノトリオを追求し、ジャズの歴史を変えた。名盤『Walts for Debby』など50枚以上のアルバムを発表。
1970’s 忌野清志郎
“KING OF ROCK”の異名を持つ伝説のバンドマン。1970年、RCサクセションとしてデビュー。’70年代は、フォークからロック/R&Bへと形態を変え、時代のアイコンとなるほど人気を博した後年への礎を築く。
1980’s 大江慎也
1980年、ザ・ルースターズのボーカル&ギターとしてデビュー。“孤高のカリスマ”と呼ばれ、いまも熱狂的なファンを持つ。代表曲に「どうしようもない恋の唄」「ROSIE」など。’82年、映画『爆裂都市 BURST CITY』に出演。
1990’s Kurt Cobain
1980年代の煌びやかなロックを否定し、退廃的な詞や荒々しいサウンドを特徴とするグランジを確立したNirvanaのフロントマン。’91年に発表した「Smells Like Teen Spirit」で世界的成功を収めるも、’94年に自ら命を絶つ。
2000’s Zack de la Rocha
ヘビーメタルとラップのミクスチャースタイルを生んだRage Against the Machineのボーカル。怒りに満ちた強烈なメッセージとサウンドで一時代を築くが、2000年に解散。’07年の再結成以降も、反権力の姿勢を貫く。
2010’s Childish Gambino
ラッパー、俳優、コメディアン、作家として活躍。2019年、銃暴力や人種差別を扱った「This Is America」で、第61回グラミー賞で最優秀レコード賞を受賞。映画『スパイダーマン』シリーズのアーロン・デイヴィス役でも知られる。
2020’s チバユウスケ
THEE MICHELLE GUN ELEPHANTやROSSOを経て、2005年、The Birthdayを結成。’22年公開の映画『THE FIRST SLAM DUNK』のOP主題歌「LOVE ROCKETS」が、大きな話題を呼ぶ。咋年、惜しまれつつこの世を去る。
おざき・せかいかん 1984年11月9日生まれ、東京都出身。2012年、クリープハイプのボーカル&ギターとして、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。現体制で15周年を迎える。小説家としては、著書『母影』が第164回芥川賞候補に。
スーツ¥68,750(lemontea TEL:03・5467・2407) ビンテージのシャツ¥33,000(Sick TOKYO sick_shibuyatokyo)
※『anan』2024年3月20日号より。写真・須田卓馬 スタイリスト・入山浩章 ヘア&メイク・シゲヤマミク 取材、文・小泉咲子
(by anan編集部)