目玉は101点の連作絵画「ZOKU‐SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館」。1982~1986年に連載された『わたしは真悟』の続編であり、B4サイズ(漫画原稿用紙と同じ大きさ)の紙にアクリル絵の具で描かれている。
「最初に見たのは鉛筆で描かれた素描。タッチの一つ一つからアーティストの原初的なエネルギーや情熱が直接的に伝わってきました」
と本展キュレーターを務める窪田研二さん。一方、それらを一枚一枚コピーし、着彩したものからは、さまざまなチャレンジが窺えるという。
「細かな筆致もあればアクションペインティングのように大胆な筆遣いもあり、飽きさせない。蛍光色や金色が入る独特の色使いも魅力です」
ペンを筆に持ち替え、「画家」として、思う存分腕を振るった新境地。会場ではカラー作品を鑑賞した後、アーティストの冨安由真が手掛ける幻影的な空間の中で、モノクロの素描101点とも対面できる。
さらに本展では作家の歩みをたどる代表作として『わたしは真悟』のほかに『漂流教室』(1972~1974年連載)、『14歳』(1990~1995年連載)にフォーカス。
「この3作品には私たちの生活に直接結びつくような状況が凝縮して描かれています。意識を持つようになったロボット、環境が破壊され荒廃した地球に教室ごとタイムスリップした小学生たちのサバイバル、培養肉を作る工程で、突然変異により生まれた鳥人間、ウイルスの蔓延など、極めて現代的なリアリティを持つ作品ばかり。楳図さんのシャーマン的ともいえる予見性に驚かされます」
しかし、物語は決して終末的な絶望で終わらない。主人公の少年少女たちが勇気を振り絞り、力を合わせて現実に立ち向かう姿は胸を打つ。
「楳図さんにとって子どもとは、純粋性の象徴なのかもしれません。勇気や愛を発露させることができる存在として、希望を込めて描かれているのだと思います」
「わたしは真悟」
小学6年生の悟と真鈴は工場で出会った工業用ロボットに言葉を教える。やがてロボットは自らを「真悟」と呼び始め…。インターネット社会やAIの到来を予見したといわれる傑作。上は東京タワーから飛び降りようとする二人を描いた場面。
©楳図かずお/小学館
「ZOKU‐SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館」
そもそも「漫画とは物語を語る絵画である」と楳図さん。本展のために4年かけて連作絵画を描き上げた。芸術家のパレットから生まれる独特の色彩が描き出す、悟と真鈴のもう一つのストーリーに引き込まれてしまう。101枚すべてがメインディッシュだ。
楳図かずお 《ZOKU‐SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館》(一部) 2021年 アクリルガッシュ、紙 ©楳図かずお
うめず・かずお 小学4年生で漫画を描き始め、高校3年生でデビュー。“ホラー漫画の神様”と呼ばれる一方、ギャグ漫画やSF漫画でも異才を発揮。『漂流教室』で小学館漫画賞、『わたしは真悟』で仏・アングレーム国際漫画祭「遺産賞」受賞。
『楳図かずお大美術展』 東京シティビュー 東京都港区六本木6‐10‐1 六本木ヒルズ森タワー52F 開催中~3月25日(金)10時~22時(入館は21時30分まで) 会期中無休 一般2200円ほか ※日時指定事前予約推奨 TEL:03・6406・6652
※『anan』2022年2月16日号より。取材、文・松本あかね
(by anan編集部)