マイペースで社交下手な海松子に、はじめて訪れた友情と恋の行方。
「両親は彼女の世間知らずさに前々から気づいていて、このまま社会人になったら苦労しそうだと心配しているんですよね」
というのも海松子はとことんマイペースで、人の気持ちを推し量るのが苦手な子。一人でいても充足しているが、人間嫌いなわけじゃない。でも友達を作るために“訓練”していることが、なんとも的外れで…。ここが爆笑モノ。
「他の人と違う視点で物事を考えているところを強調しました。自分も、子どもみたいな興味を持ち続けていたいけれど、人に変に思われそうだとか、恥ずかしいという理由で意識して失くしていったものがあります。それを主人公に詰め込みました」
大学の友達は、他人の外見を完コピする「まね師」の萌音(もね)だけ。
「距離の詰め方がオリジナルな二人にしたかった。萌音は海松子と正反対で、人の目しか意識しないタイプ。彼女みたいな人は友達を装った敵・フレネミーと思われがちですが、海松子には警戒心がない。萌音も、あまりにもできないことが多い海松子が見捨てられなくなる。二人みたいに、言いたいことを言い合っても続く関係っていいなって思いました」
彼女たちの関係がなんともいい味わい。さらに、海松子にアプローチしてくる男性が2人登場。幼馴染みの奏樹(そうじゅ)と、社会人の諏訪(すわ)だ。
「人は恋愛を通じて分かることも多いし、彼女がどんなふうに男の人に接するか興味がありました。でも海松子は恋愛の初動のときめきが薄いので、自分の気持ちに気づくまでに時間がかかるんですよね。書きながら、私も恋の行方がどうなるか分かっていませんでした」
やがて海松子は、なぜかオーラが鳴らせるようになって…というところから、物語は新たな展開へ。
「一人でいることも、誰か他の人といることも楽しいけれど、どちらかに偏ると苦しくなる。どちらがいいとも一概に言えないなと、今回の小説を書いて思いました」
海松子が得る気づきに、大きくうなずきたくなる一冊です。
綿矢りさ『オーラの発表会』 自宅から通える大学に進学したのに、両親から一人暮らしするよう宣告された海松子。新生活の中でマイペースだった彼女に訪れる変化とは。集英社 1540円
わたや・りさ 2001年、『インストール』で文藝賞を受賞しデビュー。‘04年『蹴りたい背中』で芥川賞、‘12年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞、‘20年『生のみ生のままで』で島清恋愛文学賞を受賞。撮影・フルフォード海
※『anan』2021年10月13日号より。写真・中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)