19歳のアーティストが描く57歳サラリーマンの空想絵日記。
「両親に連れられていく銭湯や、家族で食事に行く居酒屋で日常的におじさんを観察しているうちに、もしその人たちが絵日記を描いたらどんなものになるかと気になって…。自分で描いてみることにしたんです」
デジタル世代のど真ん中ながら、今作はジャポニカ学習帳の日記帳に色鉛筆で一日一枚。そのアナログ感は小学生の夏休みの絵日記さながら。「機械が苦手なんです(笑)。それにずっとサッカーをやってきたせいか、体を使って表現することが僕にとっては自然。絵を描く時も実際に手を動かすことで初めて、その質量や描く意味を感じられるんです」
ページをめくれば大迫力の画風に圧倒されつつ、まさるの日常に引き込まれる。自分の前を歩く女性が小走りで去ることに傷つき、通勤中に出くわす自由すぎる人々に戸惑う。家では軽く踊るだけで腰を痛め、腐りゆくバナナの皮に自分を重ねる。見た目は中年だけど心は多感。そんなアンビバレントな姿に年齢・性別を超えて思わず共感してしまう。
「確かに『おじさん』は誰の中にもいるのかもしれません。僕も最初は街で観察したことをもとに描こうと思っていたんですが、いざノートを前にすると全く違う内容が浮かんできて、まさるになりきって描くことも多かった。ある日はまさるに描いてもらったり、別の日は僕が描いたり。だからこれは二人で描いた一冊なんです」
19歳の感性と、空想上の57歳のおじさんによる奇跡のコラボ。そしてOGATAさんの次なる作品は?
「人間観察を軸にしつつ、インスタレーションなど絵以外の表現にも挑戦してみたい気がします。…とはいえ飽きるまで『おじさん』を追求してもいいのかな。もしかしたら僕がまさる世代になるまでライフワークとして続けているかも(笑)」
『おじさん日記』 田町のいまだ昭和なオフィスワーカー・まさるの平凡で不思議な日常を描いた絵日記。ジャポニカ学習帳のフォーマットそのままのページも注目。上はまさるの自画像。小学館集英社プロダクション 1200円
リョウ・オガタ 2001年、東京都港区生まれ。日本画の技法に親しんで育ち、東京藝術大学に在学中。地元酒場や寺での個展に映画のキャンペーンアート制作など広く活躍。大学ではサッカー部所属。
※『anan』2021年3月24日号より。写真・小笠原真紀 インタビュー、文・大澤千穂
(by anan編集部)