尾上松也 新作映画の監督を「『どうかしてるぜ』って思ってました(笑)」

エンタメ
2021.02.12
映画『すくってごらん』の真壁幸紀監督と座長を務めた尾上松也さん。互いを信頼し合い、本気で作品と向き合う撮影期間を通して作り出された、本作の「愛する表現」とはいったい。

夜の撮影でも、毎カット、全力で歌ってました。

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――ラップや歌、スクリーンに映し出される言葉が、ポップな世界観を作り出していますね。

真壁:原作の躍動感や優雅さは、音楽をフィーチャリングしたときにすごく合うんじゃないかと思ったんですよね。配信で大作も観られるなか、映画館だからこそ味わえる映画の魅力として、音にこだわりたいなと。

松也:真壁さんのことは撮影に入る前から「どうかしてるぜ」って思ってました(笑)。金魚すくいの漫画に歌を入れて描こうとする、ぶっとび感ときたら。撮影に入るまで、どんな作品になるのか明確にイメージできるわけではなかったのですが、正直、監督のそのぶっとんだ感覚が好きだと思ったんですよね。

真壁:松也さんなら、そんなわけのわからない映画に乗っかってくれるんじゃないかと。初主演でこれをやってくれる気概と器の大きさに感謝ですし、現場がすごくいい雰囲気だったのは、座長が楽しく現場をもり立ててくれたから。朝一番だけちょっと機嫌が悪かったけど(笑)。

松也:朝だけがね、どの現場でも駄目なんですよ(笑)。

真壁:夜の撮影が多かったから逆に良かったかも。夜は人間、疲れてくるものなんですけど、松也さんは集中してやってくれて、スタッフが眠い顔をしてるとそこをちゃんといじりつつ、共演者も引っ張ってくれてた。

松也:「オンリー・ユー、オンリー・ミー」のシーンも、結構、夜遅い撮影でしたよね。「近所迷惑になるので、もう歌わなくていい」とスタッフさんたちに言われても、毎カット、本気で歌ってました。監督は何もおっしゃらなかったですし、香芝が勇気を出して一歩踏み出す瞬間には迷いがないほうがいいと思ったので、僕も歌っていいのかどうかという迷いは捨てました(笑)。歌わなくても、音楽は流してましたし。

真壁:それは松也さんの役作りとして大切ですし、その全力の歌を聴いてる吉乃役の百田(夏菜子)さんの役作りにもすごく響く。実際、あれだけ歌われると、百田さんの芝居も変わりますよね。本当にいいものを撮れるなら、プロデューサー陣の声が聞こえないふりをするのは監督の仕事です(笑)。

――監督が「愛する」という表現で大切にされていることは?

真壁:エンターテインメントにおける恋愛ものでは、やっぱり大袈裟に描くことが主流なんですけど、そこにどう自分の目線を入れて作品にするかは考えてます。この脚本を書いてるときは、自分とは違う価値観を受け入れるかどうかだという話を結構してたんです。逆に言えば、価値観を受け入れるということは愛すること。香芝という出世命の人間が、金魚すくいばかりしてる町で、自分とは違う価値観の人たちと出会って成長していく。それが、大きな意味で人を愛するということになってる。

松也:そんな香芝の成長が、最初と最後で点と点が繋がるようになればいいなと思って演じさせていただいていた気がします。そこは撮影に入ってからも結構悩んでいたところですね。

真壁:物語の冒頭で出会う王寺昇(おうじ・のぼる)に最後、香芝が「お兄さん」と呼びかけるんですけど、それは松也さんのアイデアですね。

松也:そもそも香芝は人のことを「お兄さん」と呼ぶヤツが好きではない。それなのに、王寺には初対面からそう呼ばれ、しかも自分が好きな吉乃が惚れている相手でもある。基本的には彼に対しては憎悪しかないのですが、最後の最後に一番嫌いだった相手を、一番嫌いな呼び方で呼ぶことで、香芝の中で変な偏見がなくなって、階段をひとつ上ったことを見せられたらなと思いました。

真壁:100%晴れやかな「お兄さん」だったら嫌だなと思っていたんですけど、まだ受け入れきっていない感がありつつ、成長を感じさせるのがいいですよね。キャスティングって役者さんへのラブレターなんですけど、素晴らしい愛情を返していただきました。

真壁幸紀 1984年5月14日生まれ。東京都出身。『ボクは坊さん。』(‘15年)で劇場用長編映画監督デビューし、海外の映画祭でも注目を浴びる。監督作『すくってごらん』は3月12日、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。

尾上松也 1985年1月30日生まれ。東京都出身。1990 年に二代目尾上松也を名乗り初舞台。『メタルマクベスdisc2』など歌舞伎以外の舞台でも活躍。山崎育三郎、城田優と立ち上げたプロジェクト「IMY(アイマイ)」でも活躍。

ジャケット¥36,000 パンツ¥18,000(共にミスターオリーブ/ウォークインクローゼット TEL:03・5459・1885) シャツ¥31,000(ティーエスエス/ティーエスエス 代官山ストア TEL:03・5939・8090) その他はスタイリスト私物

※『anan』2021年2月17日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) スタイリスト・椎名宣光 ヘア&メイク・岡田泰宜(PATIONN) 取材、文・杉谷伸子 撮影協力・バックグラウンズ ファクトリー

(by anan編集部)

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