東京の富裕層と地方ヤンキー層 実は生活スタイルに共通点が…!
最新作『あのこは貴族』について、山内マリコさんにお話を聞きました!
お嬢様の婚活を入り口に、世の中の仕組みが見えてくる!?
大都会東京には、貴族が住んでいるらしい。ここでいう貴族とは、代々裕福な家柄に生まれ育ち、子どもの頃から私立の名門校に通い、やがて同じような階層の人と結婚していく“お金持ち”のこと。
「地方の話はたくさん書いてきたので、今度は東京生まれ東京育ちの子の話にしようと思ったとき、東京には特殊な階層があることに気づいたんです。地方出身者の私には、その内情がまったくわからなかったので、丸2年取材をして書きました」
物語は榛原家の元旦恒例の帝国ホテルでの会食シーンから始まる。三女の華子は20代後半で、おっとりとした箱入り娘なのだが、結婚したいと思っていた彼氏に新年早々フラレてしまう。そこから彼女の長く険しい婚活が始まり、諦めかけていた頃に経歴も外見も非の打ち所がない青木幸一郎という弁護士と出会う。
「幸一郎は幼稚舎から慶應に通っていたエリート中のエリート。彼のような人を内部生と呼ぶのですが、大学受験で努力して慶應に入った地方出身者、いわゆる外部生は18歳にして敗北感を味わうらしいんです」
幸一郎の同級生で外部生の時岡美紀は、内部生との間に“ガラスの壁”があることを知って愕然としながらも、東京に必死に染まろうとしてきたタイプ。上流階級からはまともに相手にされず、たまに帰省しても居心地の悪さを覚えるのだが、一見真逆にあるふたつの世界に、思わぬ共通点が浮かび上がってくる。
「東京の貴族層と地方のマイルドヤンキー層は、行動範囲が狭かったり保守的だったりして、生活様式がすごく似ているんです。しかもなぜかどちらも、小説などにはあまり描かれてこなかった世界なんですよね」
婚活というポップな切り口で幕を開けた物語は、特権階級の成り立ちや女性が東京で独り立ちすることの大変さ、男を巡る女同士の義理など、さまざまなテーマへと派生していく。そして読み進めるほどに、東京という街は、人によってまったく違った風景を見ている摩訶不思議な場所なのだと実感させられる。
「私もこの小説を書かなければ知らなかったような世界なので、単純な好奇心で楽しんでもらえたら嬉しいですし、こういう世界を知ることで日本の社会の仕組みを読み取ってもらえると、なお嬉しいですね」