似た者同士の天邪鬼? 三谷幸喜×市川猿之助が挑む“エノケソ”
取材は本番まで1か月を切った頃。しかし、この時点で三谷幸喜さんが書き上げたのは冒頭の20数ページのみ。そんな状況に、主演を張る市川猿之助さんは焦るどころか、「まだ1か月もあるし」と余裕の笑顔。
「僕ら歌舞伎役者というのは、通常3日くらい稽古して本番なわけです。しかも昼夜で何役も演じますから、逆にひとつの役について長く考えることに慣れていないんですよ。性格的に、ああでもないこうでもないってグジグジするのも苦手だし、力を抜いて気楽に臨んだほうが、面白いものができると思うんですよね」
『エノケソ一代記』で猿之助さんが演じるのは、戦前戦後に日本の喜劇王と呼ばれ、絶大な人気を誇ったエノケンこと榎本健一…ではなく、彼に憧れる無名の喜劇役者“エノケソ”。テレビのない時代、全国各地にはエノケンを自称する偽者が横行していたそうで。
「いい時代ですよね。何といっても情緒がある。いまって、何でも言語化しようとするけれど、あの頃にはあえて言葉にしない粋な面白さがあった。僕なんかは、そこにワクワクするわけ。そんな時代に、片足をなくす身体的ハンデを背負いながら、努力で乗り越えたエノケンさんっていう人は、すごいと思いますね」
なんと今回、歌も披露するとか!?
「歌は苦手だから、本当は断りたかったんだけど、エノケンさんは歌う人でしたからね。ただ、歌手ではなくて芝居のなかで歌ってたわけだから、なんとかごまかせるかな(笑)」
役柄について伺うと、「三谷さんは僕に何も言わないから、何もわかんないよ」と、これまたあっさり。
「いま僕が何かしゃべろうものなら、三谷さんって人はそれとは真逆をやろうとしますからね。そもそも、あの人が言うことのどこまでが本音なんだかわかりゃしない(笑)」
そう言い切るのも「二人とも似た者同士の天邪鬼」だから。「台本? 楽しみにしてません」と言い張る猿之助さんと三谷さんとの大立ち回り。さて鬼が出るか蛇が出るか?