多岐川裕美「毎週放送されてしまうことがつらかった」 初ドラマでの苦い思い出を明かす
主婦になるのが当たり前だった私が、なぜ女優に?!
実は私、小さい頃から将来の夢的なことをほとんど考えたことがありませんでした。昭和の時代、女性は結婚して家庭に入るのが当たり前といわれた時代ですし、私が短大に入った途端に、母が次から次へとお見合い話を持ってくるような環境で。なので、私も主婦になるんだろうな…と自然に思っていたんです。でも、じゃあ今結婚したい? と問われると、正直そうでもない。お見合い話に反発はするものの特に将来の夢も向上心もない、そんな10代の終わりを過ごしていました。
ところが、ある日突然スカウトをされ、あれよあれよとなぜか女優に。あの頃の私は特に映画が好きだったわけでもないし、芝居に対して何のイメージも持っておらず、なぜこの道を選んだのか、今考えてもよく分からない…。ただ、そんな気持ちで始めた女優という仕事はそう甘いものではなく、挫折をしまして。デビューして1年くらいで、このままではダメだと心を入れ替えました。
自分の演技をテレビで見て愕然。そこが私の分岐点。
デビューしてすぐに『みちくさ』というドラマに出演したのですが、放送を初めて見たとき、自分の演技のひどさに愕然。確かに私は演技を習ったこともない新人でしたが、それにしても下手だった。撮影は1年前に終わらせていたので、「私は1年間こんな演技をしていたのか…」ということがショックだし、それがこれから毎週放送されてしまうことも本当につらかった。そこで初めて、「もっとできるようにならなきゃいけない」という向上心が芽生え、仕事に対してやる気を持った気がします。でもそう思ったからといって急に演技が上手くなるわけもなく…。当時はリハーサルの度に胃が痛くなり、自分の至らなさが悔しくてセットの陰で泣いたりもしてましたね。今思うと本当に恥ずかしい(笑)。
でも、主婦になると思っていた私が演技に目覚めたおかげで、結果70代になった今も女優をやっている。人生って不思議だし、面白いものだと思います。
たきがわ・ゆみ 俳優。1951年2月16日生まれ、東京都出身。1974年、映画でデビュー。映画、テレビドラマで活躍。代表作にドラマ『鬼平犯科帳』や映画『いつかギラギラする日』など。昨年放送された連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』への出演も話題に。
※『anan』2023年3月15日号より。写真・中島慶子
(by anan編集部)